髙橋藍
バレーボールプレーヤー/日本体育大学
アスリートの資本は身体。どれほどの武器を備えようと、経験を培おうと、そのすべてを発揮するには強靭な身体がなければ為せるものではない。
髙橋藍も「強い身体」の必要性を、世界最高峰のイタリアで幾度となく見せつけられた。
ならば自身を磨くだけ。トレーニングと睡眠、そして食事からの栄養摂取。単身イタリアで磨かれたのはバレーボールの技術のみならず、料理の腕前も日に日に上達し、栄養の知識も増え、自身の身体と対話する楽しさを覚えた。
自身の取り組みが、次世代に伝わり、よりバレーボールが発展するなら――。
すべては、バレーボールのために。伝道師・高橋藍はバレーボールのために己を磨き続ける。
身体をつくる食事「料理の腕も上がりました」
世界での戦いは過酷だ。
日本ではなかなか体感できない高さやパワー、テクニックと対峙するだけでなく、長時間の移動も当たり前。夜の試合を終え、その日のうちにバスで移動し、自宅にたどり着くのは深夜を回ることも珍しくない。
特に重視したのは食事だ。“食べたものが身体をつくる”と考え、普段は基本的に自炊でアスリートとして必要な栄養素を摂取する。初めてのひとり暮らしで、当初こそ不慣れな面もあったが、日々積み重ねるうち、料理もすっかり板についてきた。
「朝ごはんは前日のうちにお米をセットしておいて、朝からしっかりお米を食べる。プラスして、バナナとヨーグルトも摂るようにしています。昼はチームメイトと食事に行くことが多いので、そこではあまり『これを食べなきゃダメ』と考えすぎず、でもバランスは意識して、炭水化物、たんぱく質、ビタミンが摂れるようにパスタや肉、魚、サラダは積極的に摂るようにしています。昼を比較的フリーにしているので、夜は自炊でごはんと肉、基本的にはチキンが多くて、あとはサラダとフルーツを摂るのが毎日のルーティーン。量もしっかり食べるので、1回の食事で2合半ぐらいはごはんを食べるようにしています」
YOUTUBEやさまざまな情報を駆使して、同じ食材でもなるべく楽しみながら、いろいろな味で食べられるように。試行錯誤を重ねた結果、得意料理も増えたと笑う。
「チキンもただ焼くだけではなく、親子丼みたいにめんつゆで味付けをして、ほうれん草や卵を入れたり、ブロッコリーとチキンを炒めて食べたり。つくることを義務と考えないように、料理も楽しむことを意識しました。カルボナーラもかなり上手にできるようになったので、(同じイタリアでプレーする日本代表の石川)祐希さんに送ったら『自分もできる』と張り合ってきました(笑)。僕のほうが上手につくれる自信はありますね(笑)」
身体のため、と気遣いながらも楽しむことを忘れず、時折チートデーと称してパンケーキを食したり、チームメイトとパーティーに行くこともある。その分、普段から摂れる栄養素はしっかり食事で補給するよう努めているが、食材の限りもあり、なかなか食べ物だけではカバーしきれないこともある。
そんな時、髙橋にとって貴重な“助っ人”とも言えるのが、サン・クロレラAだ。
「もう少し野菜を摂りたいのですが、食事で摂り切るには限りがある。不足を補うという意味で言えば、三食の中ではどうしても朝ごはんが足りていないので、僕は基本的に毎朝サン・クロレラAを摂るようにしています。朝から豊富な栄養が摂れるというのが自分の中で支えになっているし、サン・クロレラAがあることが心強いです」
食事だけでなく十分な睡眠と、超音波治療やストレッチ。身体への気配りもバランスが大切だ。練習が午前、午後で入っている際は昼休みに必ず30分昼寝をして身体を休ませ、夜も0時前に寝る。就寝の1時間ほど前から部屋の電気を消して、入浴、ストレッチで血流を上げ、質のよい睡眠をとり、食事から得た栄養を身体に還元する。何げないことのように見えるが、身体への高い意識を持ち、毎日継続する。ケガなくイタリアでのシーズンを戦いきったことは、その何よりの成果でもあり充実の証だ。
「バレーボールの魅力をたくさんの人に知ってほしい」
この2シーズン、髙橋が在籍したパドヴァはイタリア北西部に位置する街で、1222年に創立されたパドヴァ大学など学生が多い街だ。決して大きいわけではなく、都会すぎるわけでもない。「(故郷の)京都の次ぐらいに暮らしやすくて、心地いい場所だった」と振り返るように、チームメイトはもちろんだが、街の人たちやホームゲームの雰囲気も大好き、と笑みを浮かべる。
「大げさじゃなく、パドヴァの人たちがみんなこのクラブを応援してくれていて、みんなで一緒に戦っている。だから試合でも1点を獲れば全員が喜ぶし、取られたら怒る。自分のことも温かく迎え入れてくれて、地域愛、チーム愛というのをいつも感じていました」
22/23シーズンを終えて間もない6月、23/24シーズンは髙橋が同じイタリアのモンツァへの入団することをチームの公式ホームページが発表した。レベルアップを誓う中、着実に目標を叶えているのだが、やはり慣れ親しんだパドヴァを去る時は「あれだけ早く日本に帰りたいと思っていたのに、いざその時が来たら寂しかった」と振り返る。
だが、だからこそ誓う。
「スキルアップ、レベルアップしていきたいというのは常に思っていますし、自分の強みであるレシーブはもちろん、そこからの攻撃力ももっともっと高めていきたい。レシーブ力と、世界トップレベルのイタリアで磨きあげた攻撃力というのが自分の武器だと今は胸を張って言えるので、これからもアグレッシブに勝負していきたいです」
そして、自らの成長だけでなく、その思いはバレーボール界の未来にもつながっている。
「髙橋藍という選手を知っていただいたことがきっかけでバレーボールを見る、見てみたら面白いと思ってハマった。それでもすごく嬉しいです。プレーを見てでもいいし、外見でもいい。どんな見方もそれぞれの見方で楽しみ方だと思うので、たくさんの人に自分を知ってほしいし、自分を通してバレーボールという競技の魅力を知ってほしいです」
多くの人にバレーボールという競技を伝える。今年はその目標を叶える絶好の機会がある。来夏のパリオリンピック出場をかけた予選が、9月に東京・代々木で行われるからだ。待望の日本開催というだけでなく、連日テレビ中継もあり、露出が増えるのは間違いない。
「まずは日本代表としてオリンピックの切符を取ることが一番の目標です。そして自分はイタリアで戦ってきたからこそ、世界と戦って結果を出さないといけない。それが今の日本代表での宿命であり、やらなければいけないことだと思っています。見ていて楽しいと伝わるような、熱い試合ができるように。自分自身、そしてバレーボール界のためにも、結果にこだわって戦います」
経験を力に変えて。世界へ、強くなった姿を見せつける。バレーボールは最高だ、と広く伝えていくために。