柏倉哲平 川真田紘也
滋賀レイクス/バスケットボールプレーヤー
ダビー・ゴメス
滋賀レイクス/ヘッドコーチ
日本での開催となったFIBAバスケットボールワールドカップ2023で日本代表が躍動。48年ぶりにパリ大会2024への出場権を自力で獲得した。滋賀レイクスに所属し、「リアル桜木花道」と呼ばれた川真田紘也選手をはじめ、サン・クロレラがサポートする選手たちの活躍に、日本中がお祭りムードに包まれた。
しかし、その陰で滋賀レイクスは昨シーズンなかなか勝ち星に恵まれず、最終的にB2降格という結果に終わった。失意のなかで迎えた今シーズン、「勝率8割」「B1最短復帰」という目標を掲げ、海外キャンプなどの新たな試みも取り入れるなど、目標達成に向けて日々ハードワークを続けている。そこで今回、再起にかける滋賀レイクスを率いるダビー・ゴメスヘッドコーチと躍進への牽引役を担う柏倉哲平キャプテンに話を伺い、いまのチームの状況と復帰への思いを語ってもらった。
日本代表の熱狂がもたらした、「勝ちたい」という強い思い。
今年の夏ほど日本のバスケットボールが注目されたことはなかっただろう。FIBAバスケットボールワールドカップ2023が沖縄で開催され、フィンランド、ベネズエラ、カーボベルデに勝利して48年ぶりにパリ大会2024に自力で出場することを決めたのだった。その活躍は連日テレビなどでも報じられ、その影響力はBリーグファンやバスケットボールファンにとどまらず、お茶の間にまで浸透し、熱狂を生み出していた。国のプライドを背負って戦っている日本代表「アカツキ・ジャパン」を取り巻く人々の熱狂を、ふたりはどのように受け止めていたのか?フィーバーが落ち着いたいま、あらためて率直な気持ちを尋ねてみた。
柏倉キャプテン「彼とは大会直前に連絡を取り合って話しました。シンプルに『がんばってこいよ』とだけ伝えました。日本のバスケットボール界に新たな歴史をつくったことに、自分もひとりのバスケットボールプレーヤーとして、あるいはいちファンとしても素直に感動しました。そしてチームメートである川真田選手だけではなく、ふだん同じBリーグの舞台で戦っているライバルたちたちが、あの舞台で日本を代表して戦っている姿にはやはり自分も刺激を受けましたし、誇らしく見ていました」
ゴメスHC「日本が開催国としてワールドカップを開催できたことで、新たなバスケットボールファンを呼び込むことができたことがなにより喜ばしいことだと思っています。また、日本国内でのフィーバーはもちろんですが、世界的にも日本のバスケットボールに興味を持つ人が増えたと感じています。というのも、私個人のSNSなどに『日本のバスケは実際のどうなんだ?』とか『日本の選手はどんな選手たちなんだ?』といったメッセージがこれまで以上に数多く届くようになったからです。今回の活躍によって海外から注目されるバスケット強豪国のひとつとして認識されたのではないでしょうか」
そして、注目を集めたアカツキ・ジャパンのなかで、真っ赤な髪色にちなんで「リアル桜木花道」と呼ばれてひときわ人気を博した選手がいた。それが滋賀レイクスから唯一選出された川真田選手だった。チームメートであり川真田選手の活躍について。ヘッドコーチも柏倉選手も、口を揃えて、川真田選手が代表メンバーに選出されることについて、特別な驚きはまったくなかったと言い切る。その理由としては、まず川真田選手が数少ない貴重な日本人ビッグマンであること。さらには昨シーズンの彼のパフォーマンスやシーズンを通して成長ぶりをそばで見ていた二人だからこそ、彼が代表にとって必要な選手であることは誰の目からも明らかだということを知っていたからだ。
実際のところBリーグには日本人ビッグマンが少なく、また川真田選手のように外国籍の選手よりプレータイムの長い日本人ビッグマンというのは、過去に遡ってもほとんど例のないことではないかとダビー・ゴメスヘッドコーチは振り返る。
ワールドカップを終えてチームに戻ってきた川真田選手の印象を尋ねると「彼はワールドカップを通して間違いなく成熟したプレーヤーになって戻ってきたと実感しました」と話してくれた。そのうえで、ダビー・ゴメスヘッドコーチが真っ先にした質問は「対峙した選手のなかで、いちばん驚いた選手、レベルが違うと感じた選手は誰だ?」というものだった。それに対して川真田選手は「ルカ・ドンチッチ」と即答した。ワールドカップではスロベニア代表としてマッチアップしたNBAダラス・マーベリクスに所属するガードのプレーヤーだ。
ゴメスHC「彼はそうした超一流選手たちとコートで対峙し、ともにプレーをしてきたわけです。そういうトップ選手たちと競い合い、戦ってきたという自信と成長を感じられました。受け答えなどもこれまでと違って、選手として大人になって帰ってきたなとすぐにわかりました」。
そして「レイクスに戻ってきた彼が、今度はワールドカップで経験した世界レベルでのバスケットを、このチームもたらすと同時に若い選手のお手本になってもらいたいと思っています」としっかり付け加えることも忘れなかった。
チームケミストリーが生まれた、初めての海外キャンプ。
真夏を彩った束の間の熱狂の宴が幕を閉じ、こんどは長くそして現実的な戦い、B2シーズン2023-24が開幕を迎える。B1からB2への降格が決まった昨年とはガラッとメンバーが変わり、「Get Back」という今年のチームスローガンを旗印に、「B1最短復帰」「勝率8割」という目標に向けて、気持ちも新たに再スタートを切った滋賀レイクス。現在のチームの雰囲気について、柏倉キャプテンは「コミュニケーション」をキーワードに挙げた。
柏倉キャプテン「新チームがスタートしたその瞬間から、新加入選手から昨シーズンからいる選手まで、若手もベテランも関係なく、とにかく選手同士しっかりとコミュニケーションが取れていることをすごく実感しています。プレシーズンにおける練習試合を重ねていくなかでも、自分たちのスタイルなどについて、より具体的に話し合うことができています。いまチーム内はすごくいい雰囲気で、開幕に向けた練習ができていると思います」
その下地は、レイクス初の海外キャンプにあった。スペイン・マドリードでおこなわれたキャンプにおける最優先の目的は「チームビルディング」。新加入選手も多いなかでコミュニケーションを深めていくためには、プライベートも含め、できるだけ多くの時間を一緒に過ごすことが大事だったのだ。また、スペインのマドリードという街は、ヘッドコーチであるダビーの出身地でもあった。
柏倉キャプテン「とにかくとても充実した時間だったと思います。なんせ海外で食事のときも練習のときも、ダビーがマドリードの街を案内してくれたりするときも、とにかく寝る時間以外は、必然的にほとんど一緒にいることになるので、バスケットボール以外のことまで、広くそれでいて深くコミュニケーションすることで、みんなの考えを知る時間になりました。その結果、すごく新鮮な気持ちで練習に取り組むこともできましたし、オフのちょっとリラックスしたムードのなかで、チームとしてのケミストリーを深めることができたなと思っています」
ゴメスHC「まずはオーナーであるサン・クロレラおよびマネジメントスタッフに、今回のマドリードキャンプを開催してくださったことに感謝したいと思います。やはり自分の出身地であるマドリードでキャンプをしたことで、なぜスペイン人はこんなに熱いのか?なぜこうしたコミュニケーションの取りかたをするのか?といった「文化」を、実際にその国に行って感じたことで、より深く知ることにつながったのではないかと思います。それに自分たちのヘッドコーチのバックグラウンドを知るという意味でもすごくいいキャンプになったんじゃないかと思います」
柏倉キャプテンもダビーヘッドコーチも、今回のマドリードキャンプにおける最大の成果は、もっとも重要で時間のかかるチームケミストリーを築けたこと、チームがひとつになることができたことだと強調する。これは本来、場合によっては3か月ほどかかるケースもある難題だからだ。しかしマドリードには1週間しか滞在していなかったにもかかわらず、現在までのプレシーズンマッチやチーム練習の状況を見ていても、選手間でのコミュニケーションにおいて、これまでと違う部分がはっきりと見えてきているという。新加入選手が多く、しかもそのなかで「B1最短復帰」という必ず達成されなければならない課題を抱えた滋賀レイクスにとって、コミュニケーションの深化とチームケミストリーの構築が、よりスムーズに成し遂げられたことは大きな成果であったことは間違いないといっていいだろう。
大切なのは、昨シーズンの悔しさと戦う意志を、胸に抱き続けること。
ワールドカップ日本代表という大舞台を経て、さらにたくましくなって帰ってきた川真田紘也選手の存在。そしてマドリードキャンプという新たな試みによって確立されたチームケミストリー。ここまでいい流れに乗って、新シーズンを迎えられそうな滋賀レイクス。「B1最短復帰」「勝率8割」という、決してかんたんではない目標の達成に向けて、チームに必要なものはいったいなんだろうか。
柏倉キャプテン「B2のチームもレベルは高く、技術や実力に差があるとは思っていません。だからこそ、どのチームに対しても自分たちのバスケットスタイルを信じて戦い続けることがいちばん大事なことだと思っています。全員が同じ方向性を向いて戦うこと。誰もがブレない確固たる目標があるので、みんなが強い気持ちで望んでいるぶん、やはり旅―がめざしているバスケスタイルを信じて、それをしっかりコートで表現していく、戦い続けていく。そういうことがなにより大事なことだと思っています」
ゴメスHC「練習の初日にチームに伝えた言葉があります。それは『自分たちはB1のチームだ』というプライドを持ということ。うまくいかいないとき、やるべきことができていないときに、B1に行くためにクリアしなければいけないのだと全員が自覚を持つことが大事だと思います。また、みんなが一緒に経験した悔しい思いを忘れず、同じ失敗を繰り返さないという決意です。今回のワールドカップで優勝したドイツは、母国開催だった前回大会でスペインに敗れています。その悔しさを今回ぶつけることで優勝を勝ち取ったといえるでしょう。私たちも去年の悔しさを胸に、今シーズンを戦っていく必要があると思います」
「Togetherness」に込められた、この街全体で復帰するという決意。
レイクスの本拠地がある滋賀のブースターは、熱狂的で一体感のある応援で知られている。「B1最短復帰」「勝率8割」という目標を達成し、B1に「Get Back」するためには、ブースターの熱い声援なくしては成し遂げることはできないだろうと、ふたりは口を揃えて語っていた。選手たちのがんばりはもちろん、コーチやスタッフ、そしてブースターみんなが一丸となって、1年間にわたる長いシーズンをアグレッシブに戦い続けることがなにより重要になってくる。あらためてブースターに向けて、新シーズンへの意気込みとメッセージを伺った。
柏倉キャプテン「やはり昨シーズンの悔しさは本当に忘れられないものなので、その悔しさをしっかり今シーズン1試合1試合にぶつけていきたいと思っています。また『B1最短復帰』『勝率8割』というチーム目標は、かんたんなことではありません。まずは自分たちはあくまでチャレンジャーだという気持ちで、ひとつの試合をきっちり勝ち切ること。その結果、チームとしても成長し、最後には自分たちがもっともB1に相応しいチームだということを見せつけて、シーズンを終われるよう、がんばっていきたいと思っています」
ゴメスHC「まずはここ数シーズンなかなかゲームに勝てない状況が続き、ブースターの皆さんには残念な思いをさせてしまったと思っています。ですから今シーズンは、しっかりとみなさんにひとつでも多くの勝利を届けていきたい。その積み重ねが、シーズン最後には目標へとつながっていくことでしょう。そのときは、選手やわれわれスタッフ、そしてブースターの皆さんと一緒に、この街全体で喜びを分かち合いたいと思っています」
滋賀レイクスをひと言で表す言葉。それについてダビー・ゴメスヘッドコーチは「Togetherness」を挙げた。「一丸」という意味を持つこの言葉は、たしかに今シーズンの滋賀レイクスを表すのに最適な言葉といえるかもしれない。B2陥落という悲劇を経て、初の海外キャンプで築いたコミュニケーションとチームケミストリー。「B1最短復帰」という選手もコーチ、ブースターもが共有する揺るぎない目標。逆境だからこそ、一丸となってそれを乗り越えたとき、街やブースターを含めた「滋賀レイクス」というチームは、より強固なものになるはずだ。そして来春、実際にB1最短復帰を決めることができたとしたら、「熱狂空間」として熱い応援で知られる滋賀ダイハツアリーナは、この夏のワールドカップに勝るとも劣らない「祝祭空間」になっていることだろう。