東山高校バスケットボール部
コロナによるインターハイの中止に始まった2020年シーズン。ウインターカップ京都府予選でのよもやの敗戦、ウイルスとの見えない戦い、大逆転ありリベンジありのドラマティックなウインターカップ全国大会での準優勝という結末まで、まさに天国と地獄を日替わりで味わうような戦いが繰り広げられてきた。そんななかでも、東山らしい攻撃的バスケットと、試合中の選手たちの笑顔は、1年を通じて貫かれていた。さまざまな思いが交錯した2020年シーズンの激闘に秘められた東山バスケットボール部の物語。その全貌を大澤徹也ヘッドコーチと西部秀馬選手に伺った。
攻めの東山。恩師から受け継いだスタイルを極めたい。
大澤コーチは東山高校の卒業生で、彼自身1999年のウインターカップで得点王を獲得する活躍をしたプレイヤーだった。その後は日本大学に進学。大学卒業後すぐに東山高校に戻り、彼の恩師である田中幸信氏の下でコーチとして指導者となった。以来18年、東山ひと筋のバスケット人生を歩んできた。その田中氏が昨年3月で定年退職。そのまま引き続き大澤氏がヘッドコーチとして指揮を執ることとなった。田中氏の退任前から実質的には試合の指揮は執っていたという大澤コーチ。彼のチーム作りの方針はいたってシンプルなものだった。
大澤「超オフェンシブなチームです。とにかくオフェンスで主導権を握ること。というのも、そもそも田中先生に教わったバスケットがそういうスタイルだったのです。バスケットの醍醐味は点を取ること。100点取られても101点取って勝つ。私自身そう教わってきました。そして、そのバスケット・スタイルはとにかくやってて楽しかった。それこそが、私が引き継いだ東山バスケなのです」
就任当初は自分なりの新しいスタイルを模索していた時期もあったという。しかしうまくいかず結果も出なかった。転機が訪れたのは2016年。突出した才能を持った岡田侑大選手(現・富山グラウジーズ)を中心としたチームはウインターカップで決勝の舞台へと進み、準優勝という結果をもたらした。この躍進をきっかけに、ふたたび原点であるオフェンス重視のバスケットというところに立ち戻ったのだった。
大澤「ウチはピックアンドロールという戦術を使うことが多く、いまでは『ピックといえば東山』といわれるくらい高校では少しずつ浸透しています。しかも最近はそういうバスケットにシンパシーを感じて、『東山でバスケをしたい』とウチを選んでくれるようになりました」
今年、2年生ながらチームを支えた西部秀馬選手も、そんな選手のひとりだ。じつは西部選手は大澤コーチと同じスモールフォワードというポジションのプレイヤー。その影響もあるのか彼は大澤コーチの指導法がわかりやすいと全幅の信頼を寄せている。彼に東山を選んだ理由を聞いてみた。
西部「いちばんの理由はやはりオフェンス重視のプレイスタイル。中学生のときにインターハイやウインターカップで東山の試合を見にいったり、直接練習にも参加させてもらったりして、先生や先輩に教えてもらいました。先生の教えかたも良かったですし、優れた先輩がいたので多くのことを吸収できるんじゃないかと思ったことも大きかったですね。このチームなら日本一を狙えると思ったのを覚えています」
このように東山の攻撃的なバスケット・スタイルは多くの若いプレイヤーを魅了しているのだが、その鍵を握っているのはポイントガードだという。去年のチームでいえばBリーグの川崎ブレイブサンダースに入団が決まった米須玲音選手だ。米須選手の存在は大澤コーチ自身が学ぶことが多かったという。東山高校のスタイルはセットオフェンスを中心にしたハーフコートのバスケットだが、そこにプラスして米須選手のパスによって速攻やアーリーオフェンスなどのバリエーションが多彩になり、この3年間で攻撃オプションの幅が広がった。
大澤「ポイントガードをキーにしたバスケットについては、私自身こだわりを持って取り組んできたつもりです。そのなかで米須選手との出会いは衝撃でした。なぜなら彼のプレイが私の戦術とすごくマッチしたからです。たとえばいくつかの局面において選択する攻撃オプションが彼と一致することが多く、こちらが指示を出す前に彼はもう動き出していることが何度もありました。もちろん、もともと彼自身の才能もすごいんですけど、私との相性も含めて東山のバスケと米須選手のスタイルがフィットしたというのは大きかったと思います」
敗戦から始まった、1か月間のドラマと7日間の奇跡。
コロナの影響で夏のインターハイが中止となり、唯一の公式大会となったウインターカップ。前評判では全国大会でも優勝候補に挙げられていた東山高校だが、京都府予選の決勝でライバルである洛南高校に敗れてしまう。今年は京都から2校出場できることになっていたため、なんとか全国大会への切符は手にしたものの、チームは大きなショックを受けた。しかしこの敗戦をきっかけに「スイッチが入った」と大澤コーチは語る。
大澤「まず選手たち自身の練習への取り組みかたが変わり、『もう一本』『あともう一本』と自発的に追い込んでいくようになりました。あの敗戦から全国大会までの1か月間、ほんとうに高校生離れした集中力だったと思います。意識が変わるだけで、ここまで変われるんだということを思い知った瞬間でした」
西部「もちろん『負けてよかった』とか『負けていい試合』なんてありません。でもあの試合で負けたことによって、チームがまた日本一を取りに行くんだという気持ちでひとつになれたと思います」
そうして迎えたウインターカップ全国大会。順当に勝ち進み、準決勝へ。相手は京都府予選で敗れた宿敵・洛南だった。じつは洛南のエース小川選手が直前の試合でのケガにより欠場。ライバルとはいえ、京都で彼らと切磋琢磨してきたという思いもあり、またベストの洛南にリベンジしたかった選手たちは複雑な心境でのまま試合を迎えることとなった。逆に心の隙になるのでは…。大澤コーチは不安を感じていた。しかしそれは杞憂に終わる。全力で戦うことが相手へのリスペクトになる。そう自らを鼓舞した選手たちは宿敵相手に87-67と大差をつけ、雪辱を果たした。残すは2016年以来の決勝戦のみとなった。
決勝の相手は優勝候補・福岡第一を倒して勝ち上がってきた仙台大学附属明成。試合序盤は東山ペースで進み、12点リードして第4ピリオドを迎える展開。初めての日本一にあと一歩。いける。誰もがそう思った刹那、仙台大学附属明成の反撃に圧され、一時は逆転を許してしまう。そして3点リードされて残り16秒というところまで追い込まれた東山は、ここでファウルを獲得。3本のフリースロー。これを米須選手がすべて決め、土壇場で同点に追いつく執念を見せた。このまま延長戦か?そう思われた残り5秒、仙台大学附属明成のシュートが決まり万事休す。歴史に残る激戦の末、あと一歩のところで優勝を逃してしまった。
大澤「油断した選手はひとりもいないと思います。ただ米須が3本決めて『あとは相手の攻撃を守りきって延長戦』と先を見てしまった部分はあったと思います。そこを突かれた。相手の方が一枚上手でしたね。でもあそこでよく追いついてくれたと思います。いつもなら逆転された時点でズルズルと引き離されてしまうことが多かったのが、必死で食らいついていくプレイが随所に見られた。あの数分間は今年のチームが凝縮された瞬間だったと思います。もちろん負けたのは悔しいですが充足感はありました。同時に『ああ、もうこいつらとバスケットできないんだ』という喪失感もありましたね。本当に彼らと毎日バスケットをやるのが楽しくてしょうがなかったので」
大澤コーチはそう言って唇を噛んだ。そして続けた。
大澤「最後は監督の差です。一本守り切って延長にと考えたうちのチームと、もうここで決めてやるという相手の強さ。この差は明らかに選手の能力差ではなく、日々の指導力の差だと痛感しています。この悔しさを来年以降の指導に活かしていきたい。彼らの思いを背負って戦い、同じ轍を踏まないようにするための教訓をもらいました」
2年生ながら今大会の得点王を獲得した西部選手にも大会を振り返ってもらった。彼は「得点王はあくまで米須選手はじめチームのみんなが取らせてくれた結果だ」と謙遜するが、その実力はチーム内外から高く評価されており、来季の活躍が期待されている。
西部「今大会を通じて3ポイントシュートなどアウトサイドからのシュートや、一対一の技術に関しては自分でも通用したという自信を持てました。いっぽうで全国大会では身長の高い選手が多くリバウンドが思うように取れなかったことが課題として残りました。身体の線が細いので、ウェイトトレーニングや体幹トレーニングで身体を強くすること、しっかり食べて体重を増やしていくことでリバウンドも負けないようにしていきたいと考えています」
コロナという見えない難敵との戦いのなかで。
コロナ禍はウインターカップにも猛威を奮った。6つの高校が棄権する異例の事態に見舞われ、選手やチームスタッフだけでなく大会関係者や保護者にも緊張が走った。危機感を持った東山高校では、大澤コーチの発案で全国大会前に健康管理についての新たな取り組みを導入した。
大澤「選手の健康や体調管理については、ふだんから注意を払ってきましたが、いつも以上に敏感にならざるを得ない状況でした。やはりなにか変えなきゃいけない。そこで、京都府予選終了後にサン・クロレラのスタッフさんにクロレラに関する説明をしていただきました」
大会期間中、サポートメンバー含めてチーム全員が飲んでいたという東山高校。これまでと違うものを取り入れ、ルーティンが変わることによって選手自身の意識も高まり、練習だけでなく健康管理についてもしっかりやっていこうと結束できた。と大澤コーチは語る。
大澤「もちろん数値化できるものではないので、たしかなことは言えません。しかし、明らかに2016年に比べてコンディションが良くなっていました。当時はシード校だったので決勝まで5試合だったのに対し、今大会は6試合。それでも今回は試合中に足がつる選手がひとりもいなかった。近くで選手を見ている感想として良いコンディションをキープできていると感じました。」
西部「ぼくも大会中は継続して飲んでいました。粒タイプのものを1日5~10粒。ふだんあまり食べないので栄養補給の側面もありました。とにかく試合会場とホテルの往復時しか外に出られないことにストレスを感じていましたが、むしろその鬱憤を試合で晴らすことで爆発させることができたので、そのぶんいつも以上に試合そのものを楽しむことができたと思っています」
新チームのコンセプトは「人の心を動かすチーム」。
ウインターカップ準優勝という成績でシーズンを終えた東山高校。早くも新チームが始動している。去年のチームでは大澤コーチのアイデンティティに米須選手がフィットしていたが、今年はどういうチームづくりを考えているのだろう。
大澤「私の考えにフィットする選手が必ず毎年いるわけではないので、そこはこちらも歩み寄りながら擦り合わせていくことになる。今年のチームも昨年以上にかなりおもしろいチームなので、とても楽しみにしています。昨年、非常に良いチームができて、結果も出た。当然、今年のチームにはさらなる上をめざして、という期待がかかってくると思います」
西部「去年よりサイズが小さくなるので高さで勝負するスタイルは難しい。なので、今年は走ることを第一に取り組んでいきたいですね。新チームでポイントガードを務めるのは、足の速い選手なので、速攻に持っていくプレイを中心に組み立てていくことができれば、いいチームになるんじゃないかなと考えています」
大澤「もちろん中心は西部。最上級生となる今季はエースとしての自覚を持って臨んでもらいたいと期待しています。彼の課題はメンタルにムラがあるところ。試合になると自然とスイッチが入って雄たけびをあげたりするいっぽう、ふだんの練習では大人しくてわが道を往くという面もある。そのあたり自分でオンとオフをコントロールできるようになってほしいですね」
西部「感情のムラについて自分ではこれまで意識したことがなかったので、熱くなる部分と冷静に周囲やチームを分析する部分、意識的にうまく切り替えられるようになりたい。やはり去年は3年生に頼っていた部分がありましたが、その3年生が抜け、今年は自分たちの代になります。1年生から試合に出てきた経験を活かし、去年取れなかった日本一を取ることを目標にチームを引っ張っていけたら、きっと去年を超えるチームになれると信じています」
大澤「もちろん結果で超えることも大事ですが、チーム力として去年を超えたい。それもひとつの目標です。具体的には『人の心を動かすチームになろう』ということ。じつはウインターカップの戦いぶりを見てくれた人から、学校に励ましや応援のメールをいただくなど反響が大きかったんです。それまでバスケットの試合を見たことのない人がたまたま見て『感動しました』『明日から仕事頑張れます』と言ってくれた。知らないところでいろんな人に届いているんだなあと私たちも感激しました。でも結果は負けなんです。負けたけど最後まで諦めなかった姿にみなさん感動していただいたのだと思うので、今年のチームでは最後に東山が勝って、その勝った喜びで感動を与えよう。心を動かそう。それが、今年の新チームがめざす大きな指針になりました」
そう語る大澤コーチの眼差しはすでに今年のインターハイ、ウインターカップを見据えている。「人の心を動かすチーム」という言葉に東山高校の活躍を期待せずにはいられない。