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Vol.47
父は名伯楽。息子は期待のホープ。 八隅士和が父孝平を超える日

八隅士和(しな)
八隅孝平
レスリング/ロータス世田谷

八隅孝平が見る、強くなれる人となれない人の差          
2022/04/28

八隅孝平は息子・士和が幼少の頃からレスリングの指導を続けてきた。今春、士和が自由が丘学園高に進学したことで、それも一段落。いまや日本MMA界きっての名トレーナーといわれるようになった八隅は大きく羽ばたこうとしている息子に何を想うのか。

士和は、もう一人前

「ここ数年は試合がないのが一番のネックでしたね。やっぱり選手は試合があって山(モチベーション)を作っていく。それがないから指導する方も結構大変。ややもすると、グダグタになってしまいますからね」

「今春まで自ら運営する格闘技ジムLOTUS世田谷で長男・士和を指導していた八隅孝平はコロナ禍の指導を振り返る。予定されていた大会は相次いで中止や延期になったので、「レスリングでなくてもいいのでは?」と発想の転換を計ろうとしたときもあったという。「本人には伝えていないけど、『ノーギ(グラップリング)の練習をした方がいいんじゃないか』と考えたこともあります」

それでも、八隅の指導の軸となるMMA(総合格闘技)をやらせようとは思わなかった。「強制したこと? 一度もない。ウチにはMMAの選手がたくさんいるので、面倒を見切れないですよ(微笑)」

レスリングの世界で親子鷹はひじょうに多い。東京オリンピックで金メダルを獲得した川井梨紗子と友香子の姉妹の両親や、グレコローマンでメダルを獲った文田健一郎や屋比久翔平の父親は熱心な指導者として知られている。親子鷹は日々接している機会が多い(あるいは多かった)せいか、市井の親子関係と比べ、その関係はひじょうに密接だ。

そういった意味で八隅親子の距離は異質といっていい。第三者から見ても、付かず離れず。というのも、八隅の指導理念は何も持っていない人がちょっとスター気取りでチヤホヤされている人から勝利を奪い取るまで強くさせること。つまり才能のない選手を努力と戦略によって叩き上げ強くさせることを生き甲斐としているのだ。

「なので、強い子はそれはそれでいいだろうと思ってしまう。僕から見て、士和はもう大人。もう一人前だと思います」

高3になったら全日本選手権に出てほしい

高校入学を機に、旅立ちのときが訪れたのか。士和のポテンシャルについて聞くと、八隅は意外な考えを口にした。

「ハッキリいって(レスラーとしての)伸びしろはそんなにないと思う」

どういうこと?

「あとは成長と流れ。運ですよね。流れに乗っかれば、高校のチャンピオンにはなれると思う」

強いて高校時代に望むことは?

「高3になったら、シニアの全日本選手権に出てほしい。スタイルはグレコローマンでもフリーでもどちらでもいい。ただ出るだけではなく、大人を脅かす存在になってほしい。そういう存在にはなれると思う」

もともと士和が子供のときからあれこれ注文をつける方ではなかった。

「アドバイスはコンディショニングのことだけ。あとはケガをしたときの対処法。それらの方法はきちんと教えていました」。

自由が丘学園レスリング部の部員は週1回、フィジカルトレーナーから個別に指導を受けることができるので、八隅は「その方にコンディショニングやケガの対処法は任せてしまおうと思っている」と打ち明けた。

「父親としての希望をいえば、高校在学中に何でもいいから資格をとってほしい。まさかのときの保険としてね。何もとらないよりは絶対いいと思う」

資格とともに、八隅は英会話も習得してほしいと願う。「先日、僕は若松佑弥選手のセコンドとしてシンガポールに行ったんですよ。そのときイエローカードを出されても、英語を喋れないから『まあ、いいか』となってしまう。海外では少なくともレフェリーの発言を自己防衛として理解していないといけない。英語は大事だと思いましたね」

セコンドに就く選手の試合しか見ない

肝心の高校レスリングの試合については今年からは開催される可能性が高い。ただ、感染予防対策として無観客試合として行われると予想される。そうなると、正規のコーチではない八隅は会場内で士和と試合を見ることができなくなる。「心配にならないか」と水を向けると、八隅は一笑に附した。

「ネット中継で十分です。何ならライブで見なくてもいい。疲れるじゃないですか」

ハラハラするから?

「違います。仕事として年がら年中格闘技を見ているので、極力自分が指導している選手以外の試合は見ないようにしている。だから士和の試合はあとで見ます。内容を見たら、『こうすれば良かったんじゃないか』というアドバイスを送ることはできる」

八隅の1日は多忙だ。平日は連日指導に追われ、土曜と日曜は所属選手や頼まれた選手のセコンド業務を務めるので、顔を出す大会の他の選手の試合を見ている暇はない。

「RIZINとかに行っても、僕はもう控室から一歩も出ない。他の試合はモニターでも見ない。自分のところの選手をアップさせ、セコンドにつく。そして試合が終わったら、大会の途中でもさっさと帰ります。そして次の日の仕事に備えるようにしています」

八隅の立ち回りはまさにプロ。なんとなく観戦みたいなことは間違ってもない。それは四十路を越え、体の端々からSOSが出ていることと無関係ではない。八隅は「現役時代、総合格闘技の登竜門のひとつ・アマチュア修斗に出ていて、2回ほど肩を脱臼している」と打ち明けた。「それからずっと違和感があったけど、最近はとくにおかしい。古傷がぶり返してきたんでしょう。それでも腕(スキル)は伸びていると自負しています」

それは日々の指導の中で、新たな発見があるから?

「いや、違うんですよ。レスリングがだんだんできなくなってきているからです。それをごまかすために、グラップリングや柔術の技術に知らず知らずのうちに走っている」

ちょっと意地悪な質問をぶつけてみた。もしレスリングで士和と闘わば?

「いまのレスリングは押し出し(でポイントになる)ルールがある。あのルールがなかったら、まだいけるかもしれない(微笑)」

いまでもたまにフリースタイルでスパーリングをすることがあるという。

「普通に士和は強い。押し出しがあれば、ボコボコにされている(苦笑)。途中から僕は逃げ回っているので、試合だったら間違いなくパッシブ(消極的姿勢による警告)をとられる。まあ、逆に今後のことを考えたら、僕くらいはやっつけないとダメでしょう」

とはいえ、八隅のMMAトレーナーとしての腕は超一流だ。LOTUS世田谷にはMMAでは国内のトップが集う。八隅は「ここに来る人は強くなりたいという人しかこない」と証言する。

「どれだけレスリングや柔道が強くても、MMAやグラップリングではボコボコにされる。何回もタップした挙げ句、もう来なくなる。練習は厳しいと思う。練習についてこれなくなっても、義務教育をやっているわけではないので助けない。ぶっちゃけ、朝起きて『今日LOTUSの練習に行くのはイヤだな』と思ってもう一度布団をかぶる人は強くなれない。反対にやられても翌日になったら電車に乗ってまた来る人は強くなれる」

士和は強くなる人たちの背中をずっと見てきた。近い将来、それはかけがえのない財産になる。