勝島 新之助
サッカープレーヤー
鈴木 輪太朗 イブラヒーム
サッカープレーヤー
「ゴレアドール」とは、スペイン語でストライカーのこと。勝島新之助と、鈴木輪太朗イブラヒームには、Jリーグ徳島ヴォルティスからレンタルでラ・リーガ(スペインリーグ)のチームに移籍した若きストライカーという共通点があった。
高い技術と強いフィジカルで相手を抜き去り、得点力も高い勝島新之助選手。身長192cmという圧倒的な高さを活かしたプレーが魅力の鈴木輪太朗イブラヒーム。スペインでの1年目のシーズンを終え、シーズンオフのタイミングで帰国したふたりに、スペインに至るまでの経緯と、スペインでの今後の展望について話を伺った。
スペインで開眼した、プレーで語り合うことの楽しさ。
滋賀県出身の勝島新之助選手は、京都サンガのU15、U18でプレー。メキメキと頭角を表し、U-16日本代表として出場したインターナショナルドリームカップ2019では、大会MVPと得点王を獲得するなど、ユース世代の頃から華々しい活躍を見せていたスター選手だった。そして18歳になった勝島選手は、徳島ヴォルティスのトップチームへと加入すると、その足でスペイン2部(当時)のジローナFCのサテライトにレンタル移籍した。
勝島「小学校のころから、いずれ自分は海外でプレーするんだとずっと決めていました。高校3年になって、いよいよプロになるというとき、いろんな選択肢があったなかで、1年目から絶対に海外に出ようという思いは強くありました。ちょうどそのタイミングでスペインのジローナFCの練習に参加させていただくことができました。ヨーロッパのリーグならどの国でもいいと思っていたので、憧れだったスペインリーグのチームからオファーがあったのはうれしかったですね」
神奈川県出身で、ガーナ人の父と日本人の母のあいだに生まれた鈴木輪太朗イブラヒーム選手も、子どものころからマンチェスター・ユナイテッドのファンで、いつか自分がマンチェスター・ユナイテッドでプレーするという大きな夢を抱いていた。横浜FCのジュニアユースからユースには上がらず日大藤沢高校に進学し、全国大会にも出場した。身長192cmと恵まれた体格を持つ長身ストライカーである彼は、徳島ヴォルティスに入団するとルヴァンカップでJリーグビューを果たすのだが、その試合を見たスペイン1部の名門・バレンシアからオファーが届いた。
鈴木「代理人の方から電話があったとき、最初は『マレーシア』と聞き間違えて(笑)。海外ならどこでもいいとは言ったけどマレーシア?と思ってもみない名前が出てきたのでビックリしました。そしたら『バレンシアだよ!』って言われてそれはそれでまたビックリして。だってまさかあんな名門チームからオファーが来るとは思っていなかったので(笑)」
こうしてふたりのスペイン挑戦の旅が始まった。そのスペインでのファーストシーズン。さぞかし苦難や課題があったことだろうと話を向けると、ふたりからは「楽しかった」という意外な答えが返ってきた。もちろん、コミュニケーションの面ではサッカーの基本的な言葉はわかるものの細かいニュアンスまでは通じないし、文化はもちろんサッカー観もまったく違うため、環境に慣れるまではそれなりに大変ではあったという。それでもふたりが口を揃えてスペインでのシーズンを楽しかったと語るのはなぜなのか?
勝島「まずコーチと選手のあいだにも、ベテランと若手のあいだにも、いわゆる上下関係みたいなものが一切ないんです。選手とコーチや監督が肩組んだりじゃれあったりする。もちろん練習のときは真剣ですし、試合ではむしろ日本より激しく削り合ったりしますけど、練習や試合が終わったらめちゃくちゃフレンドリー。ゲームに勝ったら水をかけあってめちゃくちゃ喜ぶし。そこの切り替えはすごくいい文化だなと感じました。だから海外にフィットすることでの難しさは、とくに感じなかったですね」
鈴木「ぼくも海外だからやりづらい、みたいなことはまったく感じなかったですね。それに日本だとチームが勝つためのプレーを求められますけど、スペインではみんなが個人昇格を狙っているので、自分が決めて勝つという意識がとても強い。ぼくがフリーになっているのに簡単にはボールを渡してくれませんし、逆にぼくがシュートをすると『なんでオレにパス出さなんだよ!』って怒ってくる。最初はすごく戸惑いました。でも慣れてくると、自分がいまこの場面でやるべきことはなんなのか?ということが、すごくクリアになった気がします。『これが自分のプレースタイルだ』と思えるかたちを確立できたのは、やっぱりそういう個人主義的な環境にいたからだと思います」
最初に大きなインパクトを残すこと、「こいつやるな」と思わせることができたら、チームメイトは話しかけてくるようになるし、パスもくれるようになる。言葉ではなくプレーで語り合い、プレーで信頼関係を築いていく。それこそが、スペインをはじめヨーロッパで成功するための秘訣なんだと、ふたりは語ってくれた。
スペイン独特の食生活と、サン・クロレラとの邂逅。
スペインは食文化も独特だ。アスリートに限らずふつうの一般の人々でも、出勤前に軽く食べ、11時ごろにも軽食を摂る。スペイン人のメインは昼食で14時ごろにしっかり食べ、18時ごろ1日に5回に分けて食事をするのが彼らの文化なのだ。そして21時ごろからバルで語らい合いながら夕食を摂るといった具合だ。
しかしアスリートであるふたりの食事は、基本的にチームがコントロールしており、栄養士兼トレーナーが栄養価や量を調整した食事メニューをふたりに渡し、寮の食事でそれに基づいて摂るようになっているとのことだ。さすがに毎日スペイン料理をお腹いっぱい食べる、というわけにはいかないようだ。
勝島「ぼくは基本的にすべて寮でごはんを食べています。3時間ごとに身体に栄養を入れるようプログラムされていて、一日5,6食に分けて食べることになっているので、1回の食事量は少ないんですね。だからすぐにお腹が空くんで、最初はもうちょっと食べたいなと思ったこともありました。でもだんだん慣れてきて、すぐに腹は減るけどすぐお腹いっぱいになる、という身体になりました」
鈴木「ぼくも朝食と夕食を寮で摂っていますが、それはチームとは関係なく寮の食事が出されています。ビュッフェ形式になっているので、彼と同じ栄養士兼トレーナーの方から指示されたメニューに近くなるように、量やメニューを選んで摂るようにしています。昼食だけはチームが管理した食事をクラブハウスから持ち帰って寮で食べています」
食生活と栄養管理でいえば、ふたりがサン・クロレラと正式に契約し、チームサン・クロレラに加わったのは2022年4月のこと。しかし実際にはそれ以前からふたりはサン・クロレラを使い始めていたのだという。
鈴木「ぼくは徳島ヴォルティスに入ってすぐだったと思うので2021年の夏ですね。いまでは毎朝、朝食といっしょにバレンシアの生搾りオレンジジュースに混ぜて飲んでいます。疲れているときは夜も飲むこともありますね。栄養バランスが整うからなのか、スッキリ起きられる気がするので」
勝島「ぼくは高3の夏だから、同じく2021年の7月くらいからずっと飲み続けています。だいたい水割りかパイナップルジュース割りですね。朝昼晩とメインの食事ごとに3回飲んでいます。ぼくはこれまでけっこうお腹がゆるいほうだったんですけど、いまは毎日快食快便なのと、ワディといっしょで毎日のコンディションが良くなったように感じます。こういうのってやっぱり続けないと意味がないし、逆に飲み忘れてしまったりすると、気持ち悪いというか落ち着かない。ぼくにとっては1日のルーティンになりつつあります」
いつかの誰かに続く道と、ふたりがこれから往く道と。
久保建英選手や中井卓大選手のようにジュニアユースから海外のトップチームに所属する例は稀だとしても、このふたりのように日本のプロリーグをほとんど経験せずに、ヨーロッパのトップリーグへとチャレンジする選手は、今後ますます増えていくだろう。その場合、もしこれから海外にチャレンジするとしたら、いま日本にいるあいだに取り組んでおいたほうがいいことはなんだろうか?
鈴木「チャンスがあるなら1日でも早く海外に出るべきだと思います。もちろん言語の習得や、できるだけ良い待遇での移籍を待ってしっかり準備してから、という気持ちもわかるのですが、やっぱり海外に行ってみて、実際に対峙してみないとわからないことも多い。たとえば身体の強度とか、さっき言ったメンタリティの違いなどは、肌で感じて初めてわかることですから」
勝島「ぼくもワディの意見に賛成です。いずれ海外に出るつもりなのであれば、できるだけ早く出たほうがいい。スペインだとバルセロナのガビやペドリといったプレーヤーは17歳でもう国を背負っていたりする。日本でも久保選手がいるけど、ヨーロッパには毎年そういう選手がどんどん出てきているし、監督やコーチにも17歳の選手に国を背負わせる覚悟がある。技術とかも大事ですけど、そういう文化にできるだけ早く触れておくことは、じつはもっと重要なことだと思います」
20歳前後というのは、肉体的にも精神的にも、ちょうど大人になる時期と重なっている。人として成熟するその前の段階で海外に身を置き、そこで成長を遂げること。そこには単にそのチームで成功するだけにとどまらず、その後のサッカー人生、ひいては人間としての器を大きくしてくれる。ふたりにはきっと、そういう確信があるのだろう。そしてまもなく、彼らのセカンドシーズンが開幕する。それはこれまで以上にふたりを飛躍させ、より大きな成長へと導く一年になるはずだ。
鈴木「スペインでの2年目となる新シーズンはかなり厳しい戦いになると思っていますし、しっかりと結果を出さないとスペインに残れないというギリギリの立場にいることも自覚しています。でも焦りや不安といったネガティブな気持ちに苛まれてはいません。むしろ『よし、やってやろう』というポジティブな気持ちがいまは強いので、この気持ちをそのままでシーズンに挑み、活躍する姿をみんなに見てもらえたらと思っています」
勝島「ぼくはさっきも話したように、ジローナFCがラ・リーガの一部に昇格したこともあって注目度も上がると思います。だから、その舞台でたまたまでもいいから活躍して、たまたまでもいいからできるだけ多くの点を取りたい。というのも11月のカタールワールドカップ本大会の日本代表選考に向けて、スペイン一部で点を取っている選手がいるぞ、ということになればチャンスはまだあると思っているからです。自分の個人的な思いとしても10代でワールドカップを経験しているのとしていないのでは、その後のサッカー人生において違ってくると考えているので、そこを第一の目標として最初からエンジン全開でやっていきたいなと思っています」
勝島新之助選手は、前線でボールを保持したら個人技で仕掛けられる選手。三笘薫選手や伊東純也選手など、個で突破できる選手への期待が高まる日本代表のチーム状況において「ジョーカー的」な存在になりうるポテンシャルを秘めている。また鈴木輪太朗イブラヒーム選手も、上田綺世選手や前田大然選手、古橋亨梧選手など、最前線にはスピードのある選手が多く選ばれているなかで、彼のような高さのあるフォワードはいまの代表には見当たらない。
9月からの「ラ・リーガ」での活躍はもちろんだが、もしかしたら11月のワールドカップで日本代表のユニフォームを身に纏ったふたりの勇姿が見られるかもしれない。日本はワールドカップの予選リーグでスペインと対戦する。そのスペインの「ラ・リーガ」で磨き抜かれたプレーヤーに物おじすることなく対峙し、結果を残した若きふたりのゴレアドール(点取り屋)。日本サッカーに彗星の如く現れた、ニュータイプのスターの活躍に期待したい。