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2024/02/08
アスリートフードマイスターに聞く!Vol.25 陸上競技編 永石 小雪選手

【アスリートフードマイスターに聞く!Vol.25 陸上競技編 永石 小雪選手】

今回チェックするのは、立命館大学女子陸上競技部の永石小雪選手(19)だ。高校3年時にはU20日本選手権、全国高校総合体育大会(インターハイ)100メートルで優勝。昨年、立命館大に進学し、現在は全日本インカレの優勝を目指して成長を続けるホープである。管理栄養士とアスリートフードマイスター1級の資格をもつ奥村(生産開発部研究開発グループ所属)は、食事バランスとエネルギー量の考え方についてアドバイスを送った。

1日の食事・活動記録をチェック

はじめに、回答いただいたアンケートを整理します。永石選手は身長174㌢、体重62㌔(空腹時)。トレーニング頻度は週4~5日、1日の野菜摂取量は小鉢2~3杯程度とのことです。一日の食事・活動記録は下記の通りとなっており、今回もアンケート情報を基にアドバイスをしていきます。

時間 食事内容・量 活動内容・トレーニング内容
6:30 起床
7:00 朝食 ハムチーズトースト(1枚)、サラダ、ヨーグルト、ぶどう、紅茶
9:00 練習(ストレッチ、ランニング、ダッシュ、ウエイトトレーニング、体幹トレーニング)
12:30 昼食 ミートソースパスタ、ぶどう、梨
15:00 間食 チョコレート
16:00-17:00 昼寝
19:00 夕食 ご飯(茶碗1杯)、味噌汁、サラダ、豚の生姜焼き、ぶどう
20:30 入浴
21:30 ストレッチ
24:00 就寝

【写真左から】朝食、昼食、夕食

食事内容をみると、「主食」、「主菜」、「副菜」、「牛乳・乳製品」、「果物」の5つがそろっており、栄養バランスの取れた食事を考えていることが伺えました。

料理区分 料理例と役割
主食 ご飯、パン、麺など、体を動かすエネルギー源となる糖質を主に含む
主菜 肉、魚、卵、大豆料理など、筋肉や骨などの体をつくるたんぱく質を主に含む
副菜 野菜、きのこ、いも、海藻など、体の調子を整えるビタミン、ミネラルを主に含む
牛乳・乳製品 牛乳、ヨーグルト、チーズなど、骨をつくるのに欠かせないカルシウムやたんぱく質を主に含む
果物 りんごやバナナ、みかんなど、体の調子を整えるビタミン、ミネラルだけでなく糖質も含む

この5つがそろった食事が健康な体を維持し、パフォーマンスを発揮する基本的な構成です。また、それぞれの食べる頻度としては、「主食」、「主菜」、「副菜」は毎食、「牛乳・乳製品」、「果物」は1日に2回程が望ましいです。永石選手は野菜と果物を毎食意識して食べていて、乳製品も週6~7日食べている点は素晴らしいと思います。

エネルギー摂取量を増やすための実践可能なメニュー

食事写真から3食のエネルギー摂取量を計算した結果、約1,865kcalでした。日本人の食事摂取基準の推定エネルギー必要量(トレーニングがある日)は2,740kcalと算出されているため、エネルギー摂取量は少ない状況といえます。そのため、エネルギー摂取量を増やすことを検討しても良いかもしれませんが、エネルギー摂取量を急に大きく増やしてしまうと、競技で動きづらさを感じてしまう場合もあります。そこで、まずは今の状況から実践可能な食べ方をアドバイスします。

冒頭で説明したように、「主食」、「主菜」、「副菜」、「牛乳・乳製品」、「果物」の5つを1日でまんべんなく摂ることが、健康な状態を保ちコンディションを維持するためには必要不可欠です。農林水産省が推奨している食事バランスガイドでは、それぞれの食品をどれぐらい摂ればいいかを目安として示しています。1日に必要なエネルギーが2,200±200kcalの場合の目安量は、「主食」のご飯(中盛り)を4杯程度、「主菜」の肉・魚・卵・大豆料理から3皿程度、「副菜」の野菜・きのこ・いも・海藻料理を小鉢5皿程度、「牛乳・乳製品」のヨーグルトを2パック、「果物」のみかんを2個程度となっています。

出典:農林水産省「食事バランスガイド」(https://www.maff.go.jp/j/balance_guide/

この基準を永石選手の食事内容に照らし合わせてみると、「牛乳・乳製品」、「果物」は目安量を摂れています。ただ、エネルギー摂取量の割合を大きく占めるご飯、パン、麺などの「主食」が不足していることが分かります。また、肉、魚、卵、大豆料理などの「主菜」は「主食」の次にエネルギー摂取量の割合を占めるため、もう少し量を増やしても良いと思います。
ちなみに、「主菜」はたんぱく質を主に含む食品がメインとなりますが、「主食」にもたんぱく質が含まれるため、「主食」と比較して「主菜」の摂る量は少なくなっています。つまり、エネルギー摂取量を増やすためにも、「主食」、「主菜」を増やすことが大切です。
「主食」を増やすには、間食におにぎり1個を追加することがお勧めです。おにぎりの具材に鮭やツナ、明太子などを選ぶことでたんぱく質も一緒に摂ることができます。「主食」はまずは1日に食パン1枚、ごはん中盛り(150g)1杯、スパゲティー1皿、おにぎり1個を食べることを目安にしてみてください。
次に「主菜」の増やし方としては、今回の朝食メニューであればゆで卵を1個追加し、昼食のパスタの具材にソーセージを入れて、ツナのサラダを追加することが良いと思います。最後に「主菜」は、毎食2品を意識して、肉、魚、卵、大豆料理からまんべんなく食べることが望ましいです。

また、間食で食べているアーモンドチョコレートは、食べる量によっては砂糖や脂肪の摂りすぎになってしまうことから注意が必要です。食事バランスガイドでは、お菓子の量は1日200kcal以内を目安にしています。アーモンドチョコレートであれば8粒程度、板チョコであれば1/2枚程度になります。チョコレートは1日に200kcal以内とし、食事からのエネルギー摂取量を増やすようにしましょう。

コンディション維持に欠かせない「副菜」の取り入れ方

今回確認した食事メニューをみて、「副菜」が少なかったことも気になりました。「副菜」は各種ビタミン、ミネラルおよび食物繊維の供給源となる野菜、いも、大豆を除く豆類、きのこ、海藻などを主材料とする料理です。ビタミン、ミネラルは体の調子を整える働きがあり、食物繊維は腸内環境を整える働きがあるため、コンディションを維持する上では不可欠です。
永石選手のアンケートでは、よく食べる野菜に「トマト、レタス、キャベツ、玉ねぎ」が挙がっていましたが、レタスやキャベツ、玉ねぎなどの色の薄い野菜は淡色野菜と呼ばれ、食物繊維が多く含まれることが特長です。トマトは色の濃い野菜で緑黄色野菜と呼ばれるもので、疲労の原因となる活性酸素を軽減する働きがある抗酸化物質を多く含みます。緑黄色野菜はほかにもほうれん草、ブロッコリー、にんじん、かぼちゃ、小松菜などがあります。
このうち、ほうれん草や小松菜は赤血球の材料となる鉄を多く含む野菜であり、アスリートにとって積極的に摂りたい栄養素です。そのため、ほうれん草や小松菜などの野菜も、お浸しや汁物などのメニューで普段の食事に取り入れることが理想的です。
さらに、しいたけ、まいたけ、エリンギなどのきのこは食物繊維、ビタミンDを多く含みます。ビタミンDは骨づくりに欠かせない栄養素で、ホルモン調整にも関わっています。きのこはお肉やパスタなどと一緒に炒めたり、汁物に入れて食べることもできるので、同様に普段の食事から摂ることを意識してみてください。
最後に、日々の食事量とエネルギー消費量のバランスが合っているかを確認するためには体重測定が効果的ですので、毎日体重を測ることを習慣づけてほしいと思います。測定のタイミングは、朝起床してトイレに行った後がお勧めです。

エネルギー摂取量を意識しつつ、不足している食品を補っていくことの重要性や実践的なメニューの考え方などについてアドバイスを受けた永石選手。「パフォーマンスを充分に発揮するにはまだまだ改善しなければならない部分があることに気づくことができてよかった。来シーズンに向けの自己管理のモチベーションがさらに向上したと思います」。もともと食事の栄養バランスに対する意識も高く、摂取しているエネルギー量が少ないという今回のアドバイスを踏まえ、今後は間食としておにぎりやプロテインなどを摂取していくという。食生活習慣の改善によってパフォーマンスにさらに磨きをかけ、全日本インカレという最高の舞台の頂を目指し、成長スピードは加速していく。

【おわりに】短距離走における筋肉へのエネルギー供給経路

エネルギーは生命維持や運動するために欠かせないものです。このエネルギーは、体内で主に糖質や脂質、わずかですがたんぱく質を利用してつくっています。
そして、運動時に供給されるエネルギーは時間や強度によって異なることが知られています。通常、エネルギーはATP(アデノシン三リン酸)と呼ばれる物質と酸素を利用して供給されるものです。しかし、運動時は必ずしも体内に酸素が十分にある状態とは限らず、ATPを再利用してエネルギーにする必要があります。
酸素が十分にないときのATPを再利用する方法には、「クレアチンリン酸系」と「解糖系」と呼ばれる2つの経路があります。まず、クレアチンリン酸系は、筋肉に貯蔵されているクレアチンリン酸を分解することでATPを再合成するものです。酸素がない強度の高い運動を行うときのエネルギー供給として重要な役割を果たし、100mや200mの短距離走は短時間に酸素がない状態で高強度の運動を行うため、クレアチンリン酸経路で作られるエネルギーを主に利用しています。
なお、クレアチンリン酸経路は最大30秒程の無酸素で高強度の運動に対応するための仕組みと考えられています。そのため、クレアチンリン酸の枯渇後は、解糖系(無酸素系)によるエネルギー供給経路が利用されて、運動が継続されている状態になります。この解糖系(無酸素系)は筋肉に貯蔵されているグリコーゲンや血液中の糖質を分解することでATPを再合成するものです。トレーニングを積み重ねることで、短距離走の競技ではクレアチンリン酸とグリコーゲンを効率良くATPとして利用できる状態となりますが、トレーニングと同様に食事からエネルギーと栄養素を十分に摂取することが重要になります。