鈴木みのる
プロレスラー
1988年にプロデビューして以来、プロレスや総合格闘技のマットを席巻してきた格闘家・鈴木みのる。52歳となった現在も、国内はもとより海外のプロレス団体からの対戦オファーは引きも切らず、次なる闘いに向け心身を絞り上げる日々が続いている。コロナ禍で多くのスポーツ試合やイベントが中止となるなか、鈴木は何を思い、感じていたのか。その胸中に迫った。
歓声は自らが作り出すもの
新型コロナウィルス感染拡大防止のため、2月の沖縄大会を最後に興業を中止していた新日本プロレスが6月15日、110日ぶりに無観客での試合を開催した。歓声の消えたリング。そこに立った鈴木に心境を問うと「一緒です」と簡潔なひと言が返ってきた。「そこに人がいようがいまいが、同じです。テレビの向こうに観客がいることには変わりありませんから。歓声があるから頑張れるとか、力が出るなんてそんな事全く考えてないし、逆にいつも、お前ら口にチャックして黙って見てろとすら思ってます。ただし、そのチャックは絶対に俺が開けさせる。歓声には、2種類あるんですよ。場を盛り上げる応援歌みたいなものと、本当に驚いて感動して自然に出るものと。闘って驚かせて湧かせて歓声を出させるのが俺の仕事、それで金を稼いでますから」。自分の意思で場を作り上げるプロとしての矜持が、静かな口調に漂う。
コロナで死ぬか、金が尽きて死ぬか
2月以降、多くのスポーツフィールドでアスリートが試合の機会を失っている。無観客試合が始まったとはいえ、鈴木が生きるプロレスの世界もそれは同じだ。怪我を除き、32年間絶えずリングと共にあった鈴木は試合ができないこの期間、何を考えていたのだろうか。
「試合数は減りましたけど、生活は変わってないですよ。朝起きて、飯食って、午前中はトレーニングして、昼から店(原宿のパイルドライバー)に出て営業とかして、20時に閉めて家帰って、サン・クロレラA飲んで(笑)。試合へのモチベーションをどうやって保っていたか? それどころじゃないですよ。試合がなければお金は入ってこない、収入ゼロですから死ぬか生きるかが先。どうやって生きて行こうかって、最悪の事も考えました。飛んでる鳥捕まえて食おうかな、とか(笑)。試合がなくなったことは仕方がない、だからってなんでもそのせいにしたくないしね」
自粛期間中、多くのアスリートがSNSを通じ自宅でできるトレーニング方法を紹介する動画が多く配信されていたが、鈴木はすでに5〜6年前からウェイトトレーニングを辞め、畳一枚の広さでできる自重トレーニングを続けてきたという。それは自粛期間中も変わりはなかったそうだ。ウェイトで筋肉を肥大化させる事より、筋肉を思う通りに動かす事を目的とするそのトレーニングは、21歳の時に指導を受けたカール・ゴッチや、鈴木が〝オヤジ〟と呼ぶ藤原喜明から仕込まれたもの。
「ネットでいろんな人のトレーニング見たけど、新しいものなんて一つもなかったですよ。俺が習った30年前から変わってないってことは、多分100年前から変わってないと思う。ウェイトトレーニングをやめたのは飽きちゃったから(笑)。15歳の頃から40年近くやってきたから、もう筋肉は付いていますし。そもそもトレーニングって、やればやるだけ〝俺はこれだけやってる〟と思いがちだし、だから結果負けても〝やってるんだから仕方ない〟って言い訳にしてしまう事がある。それがすげぇ格好悪いなって思ってるんです。そんなの配信する必要もないしね」
一切の言い訳をしない、という生き方
誰かや何かのせいにして、自分の気を済ます。そんなありようは見たくないし聞きたくもないと、鈴木は続ける。「給付金が出ない、遅い、仕事が飛んだ、試合がなくなった、どうしてくれるんだって。言い訳合戦みたいだよね。大臣もそうだし、みんなが誰かや何かのせいにしてるから、世の中がギスギスする。そういう意見に触れるたびに自分まで黒くなる気がするから、見ないようにしてます。俺がオヤジと呼んでる藤原喜明さんが、一切そういう言い訳をしない人だったからね。若い頃はわからなかったけど、今になってすげぇ人だなって思います。今71歳で、たまに試合会場とかで顔合わせるんですが、誰よりも早くきて黙々と準備して。たとえ相手に非があっても、絶対に言い訳をしない人ですから。それってなかなか、できない事ですよ。もちろんダメは所もあるけどね、そっちは真似しない(笑)」
コロナ禍が続くなか、鈴木は「プロレスの世界も決して元には戻らないと思うし、だからこそ新しいスタイルが生まれるチャンス。経済が動き出してもう安心、とも思っていません」と言う。そして、こうも続けた。
「プロも学生もアマチュアも関係なく、スポーツをしている人が何かを誰かのせいにしてみたところで、自分には何も身につかないし、強くはならないでしょう。言われたことをやってるのにっていうのも、言い訳。世間はどうでも、自分が体を動かしている時間だけは一切言い訳をしないで、立ち向かえばいいと思いますよね」