岡田大河
(バスケットボールプレーヤー /Zentro Basket Madrid・SHIZUOKA GYMRATS)
バスケットボールを学ぶため、若干15歳にして海外に挑戦した少年がいる。その名前は岡田大河。近年、アメリカに次ぐバスケ大国として頭角を現すスペインに渡り、現地のクラブチーム「Zentro Basket Madrid(セントロ・バスケット・マドリード)」に所属。渡邊雄太や八村塁に続く、世界に通用する日本人プレイヤーとして成長が期待される存在だ。なぜその年齢で海外へ。そして、なぜスペインへ。まだあどけなさが残る少年の言葉には、世界へ挑戦する鉄の意志と、謙虚で内省的な眼差しが共存していた。
学校、食事、試合。スペインで暮らす少年の今
世界へ挑戦するために、たった一人でスペインへ渡った岡田。現在は、現地の高校に通って寮生活をしながら、「Zentro Basket Madrid」の下部組織「カンテラ」でプレイしている。詳しく説明すると、「カンテラ」とは育成世代の意味でU-18のことを指す。カンテラの中にはU-14の「インファンテル」、U-16の「カデーテ」、U-18の「ジュニア」というカテゴリがあり、それぞれに1~3軍まで細分化。岡田は「カデーテ」の1軍に所属する。カンテラを卒業すると、チームの上部組織へ入ったり、他チームに引き抜かれるなどしてプロになっていくため、ここでの活躍が将来に直結する。
通っている高校は、スペインに住む他国の子どもが通う学校。岡田以外には日本人はいない。「語学もしっかり勉強する約束で来ているので、まずはスペイン語の授業から受けています。最初は不安しかなかったですが、日常会話程度なら言葉も理解できるようになったし、友達もできました」と言い、スペインでの生活にも慣れたという。向こうでの食事は、寮母さんが作ってくれる料理。栄養が考えられているとはいえ「やっぱり日本食が恋しくなりますね」と本音がポロリ。アスリートとして大切な体調管理には、サンクロレラ・Aパウダーが一役買っている。「牛乳に混ぜて毎日飲んでいます。毎年、冬には風邪を引いていたけど、今年は体調を崩してません」と、健康面も問題ないようだ。
現地のバスケットのファーストインプレッションを聞くと「背が大きくて、外もできる選手が当たり前。ゴール下のレベルが桁違い」と言い、日本と海外のレベルの差を実感。ブラジル代表にも選ばれるチームメイトが日本でプレイしたら、誰も止められないレベルだとも語った。リーグ戦では、名門クラブである「Real Madrid(レアル・マドリード)」との試合も経験した。圧倒的な負けを想像していたが、岡田はその試合でチーム最多となる26点を獲得。あと2点で勝てるところまで名門を追い詰めた。傍から見れば十分な結果だと感じるが、「自分の甘さが出た試合でした」と悔しさをにじませる。「決めきれる選手になれって、いつも父から言われていました。日本では最後の2点を自分が決めて勝っていたんですが、そのときは人に譲ってしまった…」。プロの世界は結果が全て。残り1分で、最後のシュートを外すと次の機会を失ってしまう。たった2点。1本の重みを知っているからこそ、どこまでも自分に厳しい。
海を渡ってより高まる、静かなる勝利への貪欲さ
スペインに渡った理由である“バスケIQ”については、どう感じているのだろうか?「どの選手も状況判断が上手い。それに、ボールを持たない選手の動きを徹底的に練習します」と語り、特に「ピック&ロール」という技術の練習にかなりの時間を割くという。ピック&ロールとは、ボールを持つ選手がディフェンダーにマークされている状況で、仲間がディフェンダーの動きを妨げ、ボールを持つ選手を逃がす。その後、仲間もフリースペースへ移動して、パスを受けて攻めに入る。連携によってボールを繋ぐプレイだ。「細かくやると何十種類ものパターンがあって、瞬時に状況を判断してそのパターンを使い分ける。これがスペインのスタンダード」。特に、岡田のポジションであるポイントガードは、ゲームメイクを担うチームの頭脳。チームを勢い付かせたり、仲間を活かしたり、そのプレイが勝敗を左右する。「1対1のスキルも大切ですが、自分が止められたときに、それだけの選手になるのか、周りを活かせる選手になるのか」と言い、バスケIQを全身で吸収している。
そのほかにも、「接戦になると白熱して、乱闘も起こるくらい(笑)。この泥臭さは日本にはないですね」と、海外選手が持つ“熱量”にも驚かされるという。とある試合でのできごと。チームメイトが相手選手にラフなプレイをされたが、審判は笛を吹かない。そのうえ、相手選手はトラッシュトーク(挑発する言葉)を吐き捨てた。「そいつは『やり返すから俺にボールをよこせ!』と言って、その後、がむしゃらに攻めてゴールを決めました。コートの中は戦場なんです」。やられっぱなしでは終わらないメンタル。勝利への貪欲さとプライド。互いの思いをダイレクトにぶつけ合うのが海外のコートだという。また、白熱するあまり、チームメイトのミスに暴言を吐く選手もいると言うが、「チームの士気が下がるだけ。人のせいにしても何も解決しないし、自分で責任を持たないと次のレベルには行けないと思う」と、どこまでも内省的だ。それは、仲間とプレイする大切さと、チームを引っ張るポイントガードの責任を自覚しているからこそ。静かなる闘志は戦場でもブレることはない。
選手として、人として、ただひたすら真っすぐに
取材中、言葉を丁寧に選びながら話す姿は、15歳の少年とは思えないほど。冷静な眼差しと責任感には、大人以上のものを感じさせる。そんな彼の人格形成には、バスケットを通じて出会った人たちが大きく影響しているという。一人はミニバスケット時代のコーチ。「人として間違わないように指導してくれました。『自分一人だけでやりたいなら個人競技をやれ』、『人にやれと言うんだったら、お前もやれよ』とか、チーム競技として大切なことを教えてもらいました」と言い、今も心には多くの言葉が残る。Gymratsの先輩 大橋大空(おおはしひろたか)については、「周りへの気遣いが自分の100倍できる人」と言い、ポイントガードとして常に周りを見て、気遣いをすることの大切さを学んだ。そして、指導者でもある父からは「負けをよしとする選手は続かない、と厳しく言われました」と、負けたとしても、その負けをどう生かすか。勝ちにこだわる意思を叩き込まれたという。
憧れの選手は、アルゼンチン代表のポイントガードであり、Real MadridでプレイするFacundo Campazzo(ファクンド・カンパッソ)。渡邊雄太や八村塁といった、海外で活躍する日本人選手についても「まだまだほど遠い存在ですが、いつか一緒にプレイしてみたいです」と、やはりその目に映るのは世界の舞台だ。「目標は海外で活躍すること。NBAでもプレイしたいですが、最初に目指すのはユーロリーグ」と、真っすぐに将来を見据える。どんな選手になりたいか?という質問には「人から応援されるプレイヤー」と即答。「いくらバスケが上手くても、人間的にダメなら誰も応援しないと思うんです。人間としても、選手としても成長していきたいです」と、おだやかな声に力を込める。
取材の最後に、同世代へのメッセージを聞いてみた。「急がなくてもいいので、自分のやりたいことを見つけて欲しい。僕ならバスケだし、絵を描くことや音楽でもいいし、勉強だっていい。やりたいことを見つけたら、それを伸ばすことに、勇気を持って挑戦して欲しいです」。夢中になれる何かに出会うことは、実は難しい。だからこそ、見つけたときは自分に嘘をつかず、一歩を踏み出す勇気が必要だ。“バスケが好き”という、たった一つの真実を胸に、未来へ突き進む真摯なる少年。その真っすぐな言葉は、あらゆる人の背中を押すエールのように感じた。