中山太
(株式会社サン・クロレラ代表取締役)
BANG LEE
(オーガナイザー)
MARU
(プレーヤー兼オーガナイザー)
この記事はSunChloLetter Issue07(2020年10月発行)の転載です。
サン・クロレラが15歳以下の若きバスケットボーラーを発掘し、バスケットボールの本場アメリカのトップリーグであるNBAで活躍できる選手を育成するためのプロジェクト「GLOBALLERS(グローボーラーズ)」がいよいよスタートした。
本来であれば国内でトーナメントを行い、参加選手のうち有望選手をトライアウトに招待。トライアウトを勝ち抜いた選手による「チームGLOBALLERS」を結成し、アメリカのチームとの試合に挑む予定だった。
しかし、新型コロナウイルス感染症による世界的パンデミックの影響を受け、トーナメントは中止。プロジェクトそのものの存続すら危ぶまれたが、関係者の多大な努力によって、トライアウトを大阪・東京・福岡で実施。そのなかでもっとも優秀な選手ひとりをアメリカのスカラシップ獲得を目指して挑戦に送り出す、というかたちで再始動されることになった。そしてこのたび第一回目のトライアウトが、ついに高槻市民体育館で行われた。
サンクロレターでは、そのトライアウト会場にサン・クロレラ代表取締役社長の中山太、GLOBALLERSプロデューサーのBANG LEE氏、同じくMARU氏を訪ね、プロジェクトにかける思いと今後の展望について話を聞いた。
ピンチで求められるのは柔軟な対応力とチャレンジへの積極性。
――まず「GLOBALLERS」プロジェクトの目的や意義についてお聞かせください。
中山太(以下、中山):もちろん最終的には、このプロジェクトからNBAでプレイする選手を輩出するという大きな夢があります。しかしそれだけではなく、子どもたちに海外に挑戦する機会を提供すること自体にも大きな意義があると感じています。私自身、小・中学校時代を海外で過ごし、そこで多様なバックグラウンドを持つ人たちと直に接する機会を得たことで、視野がグンと広がったという実体験があります。ですからこのプロジェクトを通じて、子どもたちが人間としての幅を広げられる機会になればと考えています。
――今回プロデューサーとして参加されているBANG LEEさんとMARUさんは、Bリーグなど国内で活躍するプロバスケットボール選手を発掘・育成するのではなく、中学生にいきなり海外への道を提示するということについてどう捉えていますか?
BANG LEE:バスケットボールの環境という点で、日本は世界に比べてかなり遅れているのが現状です。それはぼくがアメリカに移住してストリートバスケなどをやって実際に感じたことでした。とはいえ日本国内の環境を短期間で変えるのはとてもむずかしいことなので、やはり若い選手が日本を飛び出して海外でチャレンジすることが近道だと思います。われわれ指導者に必要なのは、できるだけそのサポートをするための場所や道筋をつくってやること。その点においてこのプロジェクトのありかたはベストだと思います。
MARU: ぼくもかつてアメリカでバスケをしたいという単純な気持ちで留学したことがありました。ところが途中で挫折して帰国してしまったんです。というのも、バスケットボールのことしか考えていなかったため、向こうでの生活やコミュニケーションのことに思いがいたらなかった。それで友だちもできず私生活では引きこもってしまいました。そういう悔しい経験があったからこそ、いま自分のスクール生にも「バスケと私生活は繋がっている」ということを教え、いろんなアンテナを張ることの大切さを説いています。そしてやはりその自分が感じた悔しさは、次世代の選手に伝えて育成することでしか晴らせない。苦い経験にもそれなりに意味があったと自分で思えるくらい、子どもたちと一緒に成長していければと思っています。
――プロジェクト準備から立ち上げを経て、トライアウトの開催にいたるまでの道のりで、いちばん苦労されたことはなんですか?
中山:プロジェクトの準備を始めたのが1年半近く前。どんなプロジェクトであれ、初年度の立ち上げというのは多くの困難を伴います。しかし今回はそこに加え、コロナウイルスの世界的パンデミックという、それこそ人類が経験したことのない未知なる状況が重なってしまいました。その結果、海外へのチャレンジを目標に始めたのに、それができなくなってしまった。しかし悲観していてもしょうがない。この状況を少しでもポジティブな方向に変えていこうという努力を続けてきました。現状のところ最終選考でセレクトされたひとりの選手をアメリカに挑戦させてあげられるのか?というと、現実にはかなりむずかしいと思います。コロナの今後もまったく不透明で、不安や不確定要素がたくさんあるなかで、そのときどきにフレキシブルな運営を迫られてきたことは、やはりむずかしかったですね。
――しかし、そうしたさまざまな困難を乗り越えて、本日ついにトライアウトの開催へとこぎつけられました。いまの率直な感想を教えてください。
中山:コロナウイルス感染拡大の影響を受けて、トライアウトのレギュレーションから募集内容にいたるまで、さまざまと変更を余儀なくされはしましたが、それでもこうして初日を迎えられたことそのものに、まずは安堵しています。
――選考にあたっては、子どもたちのどういう部分を見ているんですか?
BANG LEE:こういう場では学校の部活ではやってないような初めて経験する練習メニューやプレイが求められます。そのときに不満や戸惑いを口に出したり態度に出したりしているようではダメ。対応力と積極性。未経験のことやわからないことに出くわしたとき、戸惑って固まってしまうようでは海外では通用しません。瞬時に判断してひとまず動いてみる、あるいはわかるまで質問する。この年代ではそういうスキルのほうが、ハンドリングやシュート力なんかよりはるかに重要です。
――技術的なことよりも人間性みたいな部分を見ているということですか?
BANG LEE:ええ。というか、むしろそっちがメインの選考基準になります。やはり会話のキャッチボールができないと、コーチやキャプテンから強制的に指示されないとできない人間になってしまう。それでは大学やプロなど、次のステージでは通用しません。いまの自分にはどんなプレイが必要で、コートやチームメイトになにを求められているのか?それを練習でもつねに自分の頭で考えて取り組み、試合でも即座に反応できること。特にこのプロジェクトでは、技術的なことよりも、そういう姿勢こそ先に育てないといけないと考えています。
――チームプレイだからというのもあるのでしょうか?
BANG LEE:もちろんトライアウトなので「全員を蹴落としてでも自分が受かりたい」という闘志は見せてほしい。アメリカ人ならほぼ全員がそうするでしょう。参加する者の前提としてその闘志は必要です。そのうえで、やはりバスケットボールは5人でやるスポーツ。自分ひとりで40点入れても負けてしまう試合はあります。そのときに仲間のせいにしたところで結果は変わりません。弱いチームで活躍しても自分の評価も上がらないでしょう。であれば、仲間を鼓舞し、自分の思い描いた理想の動きをできるチームにしていける人材になってほしい。それが本当の意味でのリーダーであり、トップに登っていける選手の条件だからです。
――今日のトライアウトに、そういう子たちはいましたか?
BANG LEE:高校や大学でもそれを自分からできる子はなかなかいません。ましてや大人に要求しても難しいことですからね。ただ、そのポテンシャルを感じさせる子はいました。それに中学生などのユース世代というのは、今日学んだことを持ち帰ったらひと月後にはまったく別人のように急成長している、ということがふつうに起こりうる世代。今日もその可能性の片鱗のようなものを見せてくれたと感じています。
MARU: 選考する側であるぼくらも、やはり最終的にアメリカのステージに立たないといけないので、そこは意識して見ていましたね。たとえば日本人はミスが少ない半面、消極的になって目立たないということはあります。今日の子たちも最初はミスしないようにしているなという姿勢が見えていた。そこで「もっと自分が主役になるくらいの気持ちで行こう!」とハッパをかけるとアグレッシブになっていい動きをしていた子もいました。やっぱりみんながいいパフォーマンスをして実力を出し切ってくれたなかで、選べるのがお互いにベスト。そのためには参加している子たちが足の引っ張り合いをしてしまうと、結果的に全員のパフォーマンスが下がってしまい、自分の評価も下がってしまう。だからお互いがお互いの最高のパフォーマンスを引き出すためには、チームワークが必要になってくるんです。
――ふだん指導されているチームと今回のトライアウトで、指導法など変えたことなどはありますか?
MARU: とりわけ今回はトライアウトだということもあって、あえて事前に言葉での説明をあまりせず、見て学ぶ、聞いて学ぶというところを意識しました。これはもちろんアメリカに行けば英語がわからない環境でプレイしなきゃいけないわけですから、コーチやチームメイトがやっていることを見て、即座に忠実に自分が再現できる対応力と、見よう見まねでまずやってみるという柔軟性を求めたというのはありますね。
先の見えない時代だから、未来を夢見る若者に新たな道を示したい。
――このプロジェクトでNBA選手を輩出することは本当に可能だと思いますか?
BANG LEE:前提として、まずNBA選手になれるのは世界でわずか400人程度。だからその舞台に立つ選手を育てるというのは、ぼくにとってもビッグチャレンジです。しかもこれはいままで誰も達成したことがないことです。渡邊雄太選手にしても八村塁選手にしても、中学の全中(全国中学校バスケットボール選手権)、高校でのインターハイやウインターカップ、そして大学、Bリーグという、日本の枠組みのなかからNBAに行ったわけではない。自分の力で外国に出てアメリカでチャンスを掴んでNBAにたどり着いた人たちです。つまりGLOBALLERSは、これまで日本にはなかった育成システムなので、このプロジェクト自体が新しいチャレンジだといっていいでしょう。でも、だからこそ賭けてみる価値がある。ぼくはそう思っています。
MARU: やっぱりゼロからのスタートであるということこそが、いちばん大事なことだと思っています。まずは始動できたことそのものに手応えを感じています。あとはそこにぼくらがどれだけプラスαできるか。そこはトライアウトの回数を重ねるごとに、ぼくらがアップデートしていけるかどうか。そこにかかっていると思っています。
中山:アメリカは最終目標としてもちろんありますが、まずは優秀な選手をセレクトして「TEAM GLOBALLERS」を結成すること。これがひとまずの明確な目標としてありますのでそこは確実に達成したい。そのうえで、今後の社会情勢なども見ながら、やはりアメリカがベストなのか?ヨーロッパという選択肢もあるので。
BANG LEE:そうですね。もちろんアメリカへの挑戦で良い結果を残してNBAの舞台に立たせてあげることができたらベストです。ただ、アメリカの高校生は信じられないくらい上手い。そのなかのトップは1,2年後にはNBAにドラフトされて何億も稼ぐスタープレイヤーになっていく。いっぽうでセルビアやスペインなどヨーロッパにはアメリカに進学ルートを持っているクラブチームもありますから。
MARU: ぼくの親しい選手がヨーロッパでプレイしていますが、育成システムがしっかりしていると感じます。重要な高校3年間を競争率の高いアメリカでプレイするより、育成環境の良いヨーロッパで切磋琢磨して鍛えられる方がいいかもしれない。そこで活躍してスカウトの目に留まればアメリカ進学の可能性だって充分にあります。日本人にとってはこのルートもアリだなと思いますね。
中山:
ヨーロッパの場合16歳からプロになれますし、身長が2メートルを超えるフィジカルが強い選手とやり合う環境の中でスキルを磨けば、アメリカのスカウトの目に留まる可能性もゼロではない。ヨーロッパでプレイの幅を広げてアピールを続ければ、ぼくもNBAへの道が開ける可能性はあると思っています。いずれにせよ子どもたちには、安全性を確保したうえでチャレンジしてもらいたいなと思います。
――最後にいまの若い世代へのメッセージや提言などあれば。
BANG LEE:プレイだけではなく、いまの世界のバスケの潮流がどうなっているか?トレーニング法や指導法はどうか?そうしたことにもアンテナを張っていてほしい。
MARU: やっぱり時代も変わればルールも変わるし、そうなると教える内容も、教えかたも変わります。でもそのアップデートができているかというと、まだまだ難しいところもあると思います。いっぽうで昔ながらの方法論がすべて間違っているとも思いません。そこを上手にバランスをとりながらやっていければベストだと思います。
BANG LEE:バスケットボールの試合では一秒後に自分以外の9人が同じ場所にいることはあり得ません。その瞬間その瞬間に頭を使い続け、動き続けないとできないスポーツです。自分の頭で考えることができない人は予想外のことが起きたり、これまでに対戦したことがないようなうまい選手とマッチアップしたときに対応できなくて諦めちゃう。そういう場面に立たされたときに足掻ける子が成長するんです。そういう子がいたら嬉しいなと思いますね。
中山:短い時間で正しい判断をできる人というのは、ふだんからものすごく考えている人です。自らが掲げた目標を達成するためにどうすべきか、オンもオフも関係なくつねに考えることが習慣化されている人は、急な問題が起きたときの判断も早い。そういう習慣が子どもたちに身につけばいいなと思います。今日のトライアウトを見ていても、ここは自分がアピールすべき場面だということを本能的に感じて動ける学生はアメリカのほうが多いと感じます。場の空気に飲まれて合わせていくのではなく、場の空気を感じて、そのうえで自分のやるべきことを判断して動ける人、もっと言えばその空気を自分の空気に変えてしまえるような人、そういうことを意識して生活を送れば、必ず視野も広がると思います。
BANG LEE:そうですね。それができれば、どんなすごい指導者の教えよりも伸び率がすごい。自分で上手くなりたいというエンジンがかかれば、ぼくなんかが教えなくても勝手に上手くなっていってくれます。そこの部分に気づかせるまでがむずかしいんですけど。
MARU: いっぽうで今日1日でグンと変わった子もいました。やっぱり指導者によって変わる子や、周りの環境を変えてやることで可能性とか能力が引き出される子もいます。そこは見極めて指導してあげたいですね。
――トライアウトに参加した子どもたちの顔を見て、彼らの夢を叶えてあげたいという気持ちは、よりいっそう強くなったのではないですか?
中山:もちろんそうですね。そもそも、われわれ大人が諦めてしまったら子どもたちに顔向けできないですから。ピンチではあるけれど、与えられた環境のなか最大限のことはやるという姿勢は見せたい。わたしは逆にこういう状況になったことで、このプロジェクト自身が試されているという気がしています。ぼくら自身が初めての状況や困難な問題に直面したときに、それだけ柔軟に適応できるか。たとえば立ち上げ当初の趣旨に頑なにこだわっていたら、こういうかたちでのトライアウト開催はなかったでしょう。遠く理想は掲げつつ、目の前の状況にも柔軟に対応しつつ、考え続け、動き続けること。僕らが参加する未来のヒーローに課している課題は、そのまま運営側のわれわれにも求められている。そう、感じています。