Journal

サン・クロレラの取り組みや
サポートするアスリートたちのTOPICS。

Find out about Sun Chlorella's corporate activities and sponsored athletes

official site
Vol.25
受け継がれる「世界」への挑戦心。俺たちが日本アイスホッケーを変える!
もう一度、アイスリンクを満員にするために。世代を超えたNHLへの挑戦

福藤豊
(アイスホッケープレーヤー /H.C.栃木日光アイスバックス)
平野裕志朗
(アイスホッケープレーヤー /横浜GRITS)

受け継がれる「世界」への挑戦心。俺たちが日本アイスホッケーを変える! 前編
2020/12/14

 世界中のアイスホッケー選手が目指す最高峰の舞台が「NHL」(北米プロアイスホッケーリーグ)。
華やかな照明に音楽、映像を駆使したエンターテインメント性あふれる演出。アイスリンクで2万人以上もの観客の視線が1つのプレーに注がれ、熱狂する雰囲気はアメリカ4大スポーツの1つと呼ばれるにふさわしい。
その最高峰にたどり着いた日本人が1人だけいる。ゴールキーパー(GK)の福藤豊だ。福藤は2007年1月12日にロサンゼルス・キングスの一員として日本人として初めてNHL出場を果たした。その後福藤はオランダ、デンマークなど世界をまたに掛け活躍。
現在も日本のトップリーグであるアジアリーグのH.C.栃木日光アイスバックスでプレーし、日本代表の正GKとしてもそのプレーに衰えはない。
そして、福藤のNHL出場から13年の時が過ぎた現在、夢の舞台に今一番近い位置にいる男が平野裕志朗だ。
平野は2019年、NHL2部に相当するAHLにコールアップ(昇格)した実力の持ち主。2020年11月から3部相当のECHLシンシナティ・サイクロンズと契約し、AHLそしてNHLへのステップアップを狙う。
ともに10代で世界を意識し、単身での海外挑戦に踏み切った2人は、「日本のアイスホッケーをもっともっとメジャーなスポーツにしたい」という熱い志も共有する。
アメリカでNHLへの挑戦を続ける平野裕志朗選手と、20年以上日本代表の正GKをつとめ“アイスホッケー界のレジェンド”とも呼ばれる福藤豊選手に、アイスホッケーを始めたきっかけや競技の魅力、さらには海外に挑戦することで得たもの、などなどざっくばらんに語っていただいた。

トップランナーの二人が語る、アイスホッケーの魅力とは?

――まず、お二人がアイスホッケーを始めたのは何歳くらいの時でしたか?

平野裕志朗(以下、平野):僕は父(日本リーグ古河電工で活躍した平野利明さん)の影響もあり、自然にアイスホッケーには親しんでいましたね。3歳にはもうアイスホッケーのスケートを履いていました。子どものころは野球や水泳もやっていましたけれども、やっぱりアイスホッケーが一番面白くて。

福藤豊(以下、福藤):僕は意外と遅くて小学校3年生の時に始めたのですが、そこからずっとプレーをし続けていますね。

――そんなお二人から見て、アイスホッケーの魅力はどんなところにありますか?

平野:やはりスピード感が他のスポーツと比べても違います。人間が2本の足ではとても出せないスピードで直径76.2㎜×厚さ25.4㎜のパック(ボールの代わりとなる硬質ゴム製の円盤)を追いかけ、パスをしたりシュートをしたりする。シュートの速度もNHL選手だと160km以上はゆうに出ますから。
そんなハイスピードの試合展開で選手同士が身体を張ってぶつかりあう迫力も凄い。ぜひ一度会場で見ていただければ絶対に楽しんでいただけると思います。

福藤:どの競技のプレイヤーもそう言うでしょうけれども、「これほど面白い競技は他にない」と自分は思っています。展開の速さ、スピード感、試合終了間際で逆転もあるスリリングさ。あとはゴール裏もプレーに使える、という他の競技にはない戦略性もある。
ラグビーのW杯を見て、チームのために選手が身体を張って相手にタックルして行く姿に感動された方もいらっしゃると思うんですが、アイスホッケーはそれと同等かそれ以上に「自分を犠牲にしてでも、チームのために勝利に向かっていく」という絆の深いスポーツでもあるんです。シュートブロック(相手のシュートを身を呈して止めるプレー)などはその最たるものですし。

平野:NHLをはじめ北米のリーグではファイト(試合中に選手が1対1で拳を交えること)もアイスホッケーの魅力の一つとファンが分かっていて、ファイトが始まると観客が総立ちで声援を送るくらいです。
このあいだ日本の試合でそれをやったらSNSで賛否両論になったけれども(笑)

福藤:日本ではあまりファイトの文化が浸透していないからね。
海外だと、GKに相手選手が不当にぶつかったりすると味方が「俺たちのGKに何するんだ!」と必ず立ち向かってくれます。北米だと「GKは自分たちの家。絶対に守るべき場所」という意識が刻まれていますから。

平野:そうですね。そこは徹底している。

福藤:アイスホッケーは昔から「氷上の格闘技」という言葉で例えられることが多いのですが、最近は関係者のなかでも「格闘技ではないから」とその形容を嫌う人もいるんです。
でも、そこは仲間を大切に思って戦うアイスホッケーの良い部分でもあると思うんですよ。
一つのラフプレーが大きなケガに繋がりかねない状況で、チームメイトが相手からダーティーなプレーをされた時に「まあ、そこは気にするな」って大人しく終われるような集団ではないので。やっぱりチームメイトのことは守りたいし、それこそ戦わなければ汚いプレーをされ続けてしまうから。

平野:ファイトするにも必ずお互いが守るべき暗黙のルールがあるので。たとえば、必ず1対1で戦うとか、グローブは必ず外すとか。あとはどちらかが氷上に倒れ込んだらそこで終了、とか。
アイスホッケーを知ってもらうためには良い意味でも悪い意味でも何か話題となるきっかけがないといけないと考えているので、僕も福藤さんも競技のことを知ってもらうための情報発信に力を入れています。

福藤:僕は日光アイスバックスのGK3人でYouTubeチャンネルを立ち上げて、GKならではの目線からプレーを解説していますが、そういった活動を通してファンがこの競技の面白さに触れてもらえればと思っています。最近はSNSで情報発信することの重要さを分かっている選手が増えているので、それこそSNSから選手個人を好きになってもらい、それをきっかけに試合観戦に来てもらうという形でも全然良いと思いますし。

平野:たとえばさっき触れたファイトの件も、「なんで試合中に殴り合いをしているんですか?」というファンの率直な疑問にしっかりとアンサーを返すことで理解してもらえるし、話題として広げてくれる。
アイスホッケーを知らなかった人たちにも興味を持ってもらえる良い手段だと思うので、そんなことを意識しながら自分はSNSで発信しています。

福藤:あとは「プレーする“音”の迫力が凄い」と、特に初めて生で試合を見た人から言われますね。スケートが「シャッ」と氷を削る音やパックがフェンスに当たって「バーン」と響く音の迫力。選手同士が身体をぶつけ合うときの音も凄い。アイスホッケーの「音」が好き、というファンは多いと思います。

平野:別の切り口から言うと、アイスホッケー選手はイケメンが多いですよ(笑)
知り合いの女性が見に来ると「あの選手が格好良い」とか感想を教えてくれます。「ヘルメットを脱ぐ前後の『ギャップ萌え』がいい」とか(笑)

福藤:5割増しくらいにはなる(笑)

平野:それから「あのプレーは何だろう」とか「あのルールはどういうことなのかな」という部分が結構多いので、なにか目標を持って次も見に来られるようなスポーツだと思います。知らない人が多いじゃないですか? ルールすべてを。たぶん、“全クリ”するまでに何試合も楽しめるんじゃないかな?

福藤:自分も“全クリ”できてないもん(笑)

世界との戦いで突きつけられた、アイスホッケーというスポーツの凄み

――お二人はともに10代のときから海外挑戦をしています。どんな思いからだったのですか?

福藤:僕が海外で戦うことを初めて意識したのはフル代表として初めて参加した2000年の世界選手権です。それまで日本で見てきたアイスホッケーとはまったく違う世界を目の当たりにして衝撃を受けました。当時、日本は最上位クラスのAプールに所属していてNHLクラスの名選手とも普通に戦っていた時代です。日本の試合がないときは強豪国の試合も見に行って「とにかく格好良いなぁ」と。子どものころに日本リーグの選手たちに持った憧れと同じような気持ちを海外の選手に覚えたのは今でも覚えています。
ただ、その時代は海外に行くというのはまだまだ特別なことだったので。

――当時日本リーグの選手は留学と称した短期移籍で日本に戻るのが前提ということが多かった。本格的な海外挑戦では福藤選手はパイオニア的存在でした

福藤:2004年にECHLベーカーズフィールド・コンドルズへ移籍した時に、自分はずっと海外でやっていくんだ、と決意して渡米しました。強くなるためには継続して海外で戦い続けなければダメだと感じたからです。
日本式に言うなら、3部のECHLでも常時6000人の観客で会場は埋め尽くされるくらいで、選手達も「絶対にコールアップ(昇格)するんだ」とギラギラしている。そんな環境に身を置くことで自分自身の成長に繋がった部分はたくさんあります。

平野:そうですね、GKとフォワード(FW)というポジションの違いこそあれ、福藤さんがNHL出場を果たしたときは「いつかはオレもこの舞台に行くんだ」という思いで見ていました。当時、福藤さんのようになりたいと思ったのは間違いないですし、今でも思っています。
僕が本気で海外挑戦を意識したきっかけは、高校(白樺学園高)1年生の時に参加したU18の世界選手権です。子どものころから「いつか必ずNHLに行く」という思いで取り組んで来たなかで迎えた世界の舞台。その時のU18日本代表は黄金世代と言われ自信もあったのですが、まさかの1勝4敗におわり降格、という結果でした。
そこで世界との差を突きつけられたいっぽうで、観客の盛り上がりや会場の雰囲気などから、海外ではアイスホッケーがもの凄く人気のあるスポーツということを肌で感じた大会でもありました。
もっと強くなりたい、高いレベルでプレーするには日本を出て挑戦するしかないと覚悟を決めて、高校2年生の時には顧問の先生に海外挑戦したいと伝えていましたね。

――海外でプレーすることでどんな変化がありましたか?

福藤:アメリカに行ってから、「選手としての責任感」に対する意識は大きく変わりました。
日本にいたときは、GKは大事にされるポジションで失点してもシュートを打たせたプレイヤーの方が悪い、といった環境のなかでずっと育ってきたんですよ。正直に言うと。
ところが海外だとコーチや仲間から「これはGKであるお前の仕事だろ」というのをはっきり言葉に出して言われますし、それこそ週単位での契約なので結果が出なければクビにされるのもあっという間。「自分の仕事を続けるためにも、試合では常にベストを出し切らなければならない」という点で、メンタル面でももの凄く成長できたと思います。
正直に言うと、楽しいと思ったことは一度も無かったです。アメリカ生活では。
今も試合を楽しもう、といった思いはまったくありません。GKとしてやるべきことをパーフェクトに遂行して、勝利したその瞬間に初めて喜べば良い。そういう強い気持ちはアメリカに行って気づかされたし、自分が成長できた部分でもあると思います。

平野:GKの方がFWよりも1ポジションしかないのでより厳しいとは思いますが、アメリカではFWも1つ1つのプレーに人生をかけるくらいの思いでプレーしています。日本と比べたら「本当にまったく違うスポーツ」と言って良いと思います。
細かい部分でいえば、それこそ試合中でもトラッシュトーク(悪口)で口撃してきますし、審判が見ていないところで相手をプッシュしてスタートを1歩遅らせるとか、ある意味でのずる賢さといった部分もよくあります。
北米のプロリーグでは、一歩リンクを出れば味方も信用できない世界であることは確かです。今いるECHLは「どういう手段を使ってでも自分は上に這い上がるんだ」という選手も多いので、普段の生活からも気を抜けない。

――えっ? プライベートでもですか?

福藤:北米ではチームとしての和みたいなものも非常に大事にされる。選手は飲んだりするのも凄く好きですし、日本よりもそういう繋がりが強い。チーム全員でパーティーするなかで、例えば裕志朗だけが来ていなかったとしたら「なんだアイツ」みたいにもう簡単に言われてしまうし。
でも裕志朗からすれば上を目指すなかではその時間は自分に必要ない。その天秤というか決断というのはとても難しいと思う。僕が北米にいるときもそんなシチュエーションはけっこう経験したから。

平野:お酒やたばこ1本でもそうですし、それこそドラッグが許されている州もある。遠征でそういう所に行くと、仲間から誘われたりもします。そのなかに、純粋な善意とは違う思惑が混ざっていることもありえますから。

福藤:僕も当初は誘われることが割とありましたね。

平野:自分がどこを目指していて果たしてそれが必要なのか、と考えたときにそれはまったく必要ないですし。そういった部分でも戦わないといけない。

福藤:パーティーに行かないと悪口みたいにチームメイトから言われ、僕も当初は「ええっ!?」て感じでカルチャーショックを受けました。
でも僕は自分を貫きましたからね。練習はずっと真面目にやっていました。全体練習が終わってからもみんなのシュートを常に受け続けて。そこの信頼は得られていたような気がしますし、それが長くやれている理由なのかなと思います。

平野:最初の海外挑戦ではケガなどもあって、いったん日本のチームに戻る形だったのですが、海外への再挑戦を決意したときはジュニアリーグ時代の友人のツテを頼りにスウェーデン4部のチームに入れてもらうところからのスタートでした。4部ですので意識の高い選手もそうでない選手もいる。それこそ全体練習が終わってから僕一人だけ筋トレしているなんてことはしょっちゅう。
僕はそこで「NHLに行きたいんだったら絶対に手を抜かずに自分と戦い続けなければいけない」と覚悟して取り組み、やり抜けたことを誇りに思っています。

――それほどまでに頑張れるのはどんな思いから?

平野:やはり日本のアイスホッケーをもっともっと盛り上げて、世界と互角以上に戦える存在にしたいと思っているからです。世界最高峰の舞台であるNHLに僕がたどり着くことができれば、日本のアイスホッケーはきっと大きく変わる。そのきっかけを作りたい。
野球でもサッカーでもパイオニアがいてこそ今があるように、アイスホッケーでは福藤さんが切り開いてくれた道に僕もしっかり続いて行きたいと思っています。

福藤:初めて日本代表の合宿で一緒にプレーしたときから、裕志朗は代表チームに全身全霊を捧げる意識で戦っていることはすぐに分かりました。彼のような選手がどんどん出てきてくれれば、日本のアイスホッケーが世界から注目されるときが必ず来ると思います。