髙橋藍
バレーボールプレーヤー/日本体育大学バレーボール部
日本代表として、ネーションズリーグ、東京2020オリンピック、そしてアジア選手権を戦い抜き、世界にその名を轟かせた髙橋は、9月末に日本体育大学へと戻ってきた。インタビュー後編では、半年遅れでスタートさせた大学2年生のシーズンを中心に、その中で果たした役割と自身の大きな決断に迫った
離れていても、チームに与えていた影響
日本体育大学に帰ってきた髙橋を、メンバーは温かく、盛大に出迎えた。
「半年間もチームを離れて、迷惑をかけていると思い込んでいました。ですが、『藍が代表として世界で頑張っているから刺激になった』という言葉をかけてもらって、離れていても自分がチームに影響を与えていることを実感しました。チームを強くするためにも、代表で学んできたことを伝えるのが自分の仕事です」
当然、チームメイトからの見られ方にも変化があった。チームが髙橋に期待するレベルはより高くなり、一挙手一投足に視線が集まる。そこに以前とのギャップも感じたが、それ以上に髙橋がいることで、今までよりもっと“やらないといけない”という姿勢が一人一人に見られたという。だからこそ、彼が学んできたことをチームに対して全力で出して、それにチームもついてくる、というつながりができていた。
10月に開幕した関東1部秋季リーグ戦では、コンディション調整もありベンチ外でスタート。彼のポジションであるアウトサイドヒッターには、1年生が入ることも多かった。1年前は自身も1年生で唯一コートに入っていたからこそ、理解できる感情がある。
「なかなかうまくいかなくて、考え込んでしまうのは、1年生ならではだと思います。彼らから、『どうしたらいいですか』と相談を受けることもあり、そのときは気持ちの問題だということを伝えました。自分にも試合で結果が出せない日はありましたが、そこを乗り越えたときに強くなっているという実感があるので、その経験をしっかり話しました」
半年間離れていたため、直接チームと関わることは少なかったが、髙橋は大学2年生。日本代表ではいちばん年下だったが、大学では先輩として頼られることもある。
チームの一員として、コートに立って果たした役割
グループリーグ戦を5戦全勝で終え、日本体育大学は準決勝に臨んだ。そこで1年ぶりに日本体育大学のユニフォームに袖を通し、コートに入った髙橋は、グループリーグ戦の期間休んでいたこともあり、コンディションはよかったと言う。だがチームメイトは違った。
「自分が入ったことで、“ほんとうにやらないといけない”というちょっとした緊張感がありました。準決勝の筑波大学戦ではなかなかトスも合わなくて、チームがかみ合っていない状態でした」
だがそれも試合の中で修正され、勝利して迎えた決勝の早稲田大学戦は万全な状態で挑んだ。そもそも今年度の日本体育大学は、「サーブレシーブがいいのでサイドアウトが取れて、ハイボール(二段トス)も決めきれる安定しているチーム」だと話し、サーブレシーブを得意とする髙橋にとって、「馴染みやすい」チームだった。準決勝を経て歯車のかみ合った日本体育大学は、見事9年ぶりに秋季リーグ戦で優勝した。この結果において、髙橋が得点源の一人であることは間違いないが、日本代表として果たした役割とは。
「いちばんはやっぱり声かけです。試合中は集中してまわりが見えなくなってしまいがちですが、日本代表を経験したことで、少し余裕がありました。そこを生かしてチームメイトを鼓舞したり、決まったときは喜ぶなど、シンプルなことですが、チームの雰囲気を保つことに徹していました」
日本代表での経験もチームにしっかり還元し、髙橋にとっても大学初のタイトルを手にしたのだった。
世界を変えるべく、20歳の挑戦
「勇気と信念が世界を変える」
髙橋のSNSのプロフィール欄に記載されている言葉だ。『プリズン・ブレイク』という海外ドラマの中で出てくる言葉で、彼の座右の銘となっている。
「今の自分にぴったりな言葉だと思うんです。19歳で、勇気を出して世界と戦い始めました。そこで戦い続ける中で、日ごろのルーティーンや食生活、練習を信じることが、未来を変えるんじゃないかな、と思うんです」
目まぐるしく変わる環境の中で、勇気と信念で未来を、自身の世界を変えていく―――。
そして2021年12月、大学のシーズンを終えた髙橋は勇気を出して新たなる環境に挑んでいる。イタリア・セリエAへの挑戦だ。
「19歳でオリンピックに出場できたことは自分にとって大きな経験でした。そこで、足りないと感じたことは世界との経験でした。次はパリオリンピックが待っている中で、メンバーに選ばれることはもちろん、あと3年でどれだけ世界と戦える力をつけるかが大事だと思います。1戦1戦無駄にはできません。もっと世界と戦いたいです」
19歳で感じた世界との差を埋めるべく、20歳でさらに大きく広い世界に飛び込む。髙橋の“勇気と信念”は、私たちに次はどんな世界を見せてくれるのだろうか。
世界を変えた、その先で
サクセスストーリーを進み続ける髙橋の姿は、憧れの存在として、子どもたちがバレーボールを始めるきっかけにもなっている。
「コロナ禍で思うような活動ができない中で、バレーボールを始めるということは、ほんとうにバレーボールが好きな子たちなんだと思います。好きという気持ちさえ忘れなければ、ブレないと思うので、バレーボールを楽しんで、全力で取り組んでほしいと思います。あとは、未来の子どもたちを待てるよう自分が代表で頑張って…、一緒にバレーボールができるのが楽しみですね!」
“東京2020オリンピックに出場する”という12歳のときに描いた夢を実際にかなえた髙橋。彼と同じような選手が隣に立つ未来は、そう遠くないのかもしれない。