ベジンジャーズ
エシカルという言葉を最近よく耳にするようになった。直訳すると「倫理的」という意味を持つこの言葉は、近年では地球環境や地域社会に配慮した考えや行動をさすといわれる。そんなエシカルな生きかたを身近な暮らしのなかから考えていくためのイベント「How to be Ethical」。2回目の開催となった今年、その一環としてサン・クロレラがスポンサードしたトークイベント「トップアスリートが選ぶ、史上最高の自分になるための食事法」が行われた。プラントベース・アスリート集団「ベジンジャーズ」のメンバーとしても活躍し、おなじみのサン・クロレラパートナーの池田祐樹さん(プロマウンテンアスリート)、池田清子さん(アスリートフード研究家)に加え、同じくベジンジャーズのメンバーで、「How to be Ethical」の発起人でもある一ノ瀬メイさん(水泳パラリンピアン)、島田大陸さん(プロフットサルプレーヤー)が京都河原町御池にあるQUESTIONに集結。エシカルな食生活と身体づくりをテーマに語り合った。
ベジンジャーズとして開催される初めてのトークイベント。
ベジンジャーズとは「限りなく強く、優しい世界をつくる」という理念のもと、植物性主体の食生活をしながら世界を舞台に活躍するプラントベース・アスリート集団。今回集まった4人以外にもフィギュアスケートアイスダンス日本代表の小松原美里・尊ペアや、プロテニスプレーヤーの日比野菜緒選手、ビーチバレーボールの浦田景子選手など、スポーツの垣根を超え、同じ志を持った約25人のメンバーが共同アカウントで、アスリートの食生活や活動の最新情報などを発信している。ちなみにベジンジャーズという名は、今回のイベントの実行委員の一人でもある一ノ瀬メイさんが名付けたものだそうだ。
一ノ瀬メイ「私は去年まだ現役でオーストラリアに拠点に練習していたのでオンラインでの参加だったのですが、今年はこうやって私の地元である京都で皆さんと一緒に参加できて、とてもうれしく思っています。せっかく京都に帰ってきてHow to be Ethicalに現地で参加できるならベジンジャーズとして行う初のイベントをこの舞台でやってみたいなと思って企画しました」
植物性の食品を主体とした「プラントベース」という食事スタイル。ヴィーガンといえば食べるものが限られると考えがちだが、野菜、果物、豆類、全粒穀物(穀物の中でも精製されてない状態のもの。たとえば白米ではなくて玄米、小麦だったら白小麦ではなくて茶色い全粒粉、十割そばなども含まれる)、ナッツ、種子類、キノコ類、海藻類など、じつに多種多様な食品を食べることができる。避けるのは肉類・魚介類・卵・乳製品などの動物性食品。
こうした菜食中心の食事スタイルが健康に良いことは、いまでは誰もが理解できるし、近年では肉を生産するための家畜用の飼料として大量の穀物が必要となるため、過剰な肉食が地球環境に負荷をかけ、さらには世界の貧困の一因になっているとも言われている。プラントベースの食事スタイルが、こうした個人の健康問題から社会問題、ひいては地球環境問題を解決するためのひとつの手段でもあることも徐々に認知されつつあると言っていいだろう。
しかし、ひとつの疑問が頭に浮かぶ。ハードな運動を必要とするプロアスリートがヴィーガンやプラントベースの食生活で、はたして本当にトッププロとして試合に勝つために必要な強靭な肉体を維持できるのか?というものだ。この根源的な問いについて、それぞれのアスリートは次のように話してくれた。
アスリートがプラントベースの食事を続ける理由。
池田祐樹「ぼくがプラントベースを始めたのは、いまから8年前、34歳のときでした。写真を見ていただければおわかりのとおり、見た目が明らかに若返っていますね(笑)。もちろん見た目だけでなく競技にもいい影響が出ています。たとえば毎年アメリカで開催される100マイルの長距離マウンテンバイクのレースに出場していますが、じつは20代のころの記録を更新しましたし、優勝回数や表彰台に上がる回数もプラントベースの食事に変えてから劇的に増えました。トレーニングの中身はほとんど変えていないので、ほぼ食生活を変えただけで身体が若く、強くなっていることを記録が証明してくれています」
一ノ瀬メイ「私の変化も数値で説明できます。私がプラントベースの食事に切り替えたのは2020年の5月のことなのですが、当時私が所属していたチームでは骨密度から筋量まで身体のすべてを測るスキャンを3ヶ月に1回ペースで行っていました。プラントベースを始める前の数値とプラントベースを始めて5ヶ月後の数値を比較したところ、この5ヶ月間の間はロックダウン期間とも重なり、ウェイトトレーニングやプールでの練習もあまりできていなかったにもかかわらず、脂肪量が1kg、体脂肪率にして1.4%ストンと落ちました。しかも筋量は維持されたまま。当初コーチたちからは『お肉を食べないでタンパク質は足りるの?」とすごく心配されていたのですが、アスリートとしていい身体になっていることが数値で明確にあらわれているのを見て『そのまま続けてくれ』と言われました(笑)』
島田大陸「ぼくはプロになる前からプラントベースの食事を実践していました。きっかけは2015年ごろにアメリカに住んでいてベジタリアンだった伯母夫婦から、アメリカではアスリートでもベジタリアンやヴィーガンの人が増えているという話を聞いたこと。ちょうどぼく自身サッカーの道を諦めてフットサルの世界に挑戦しようという時期だったこともあり、あれこれ試行錯誤していたタイミングでもあったんです。それで、まずは牛肉だけにしてみて、次に豚肉だけにしてみる。それから鶏肉、魚もと続けて、野菜と卵だけというところまでいきました。そうやってパフォーマンスの良くなる食事がなんなのかを片っ端から試してみたら最終的にヴィーガンにたどり着いた。あとぼくはゲーム中に感情が昂ることがあり、それがよくない方向に出ることが多かったのですが、ヴィーガンを導入して以降は感情を上手くコントロールできるようにもなりました」
池田清子「私はアスリートではありませんが、アスリートフード研究家として仕事を続けながら、食事と健康、栄養と肉体の関係について日々向き合ってきました。そのなかで、いつしか自分も運動をしたほうがいいと考えるようになりました。というのも、たとえば私が用意した食事メニューに対して、夫が『今日の練習量で考えたらタンパク質が足りない』といった不満を口にすることが何度かあったからです。それなら、自分もハードなトレーニングをしてアスリートの気持ちや栄養の必要量を体感してみようと考え、トレイルランの練習を始めたんです。そうしたらグングンと記録が伸びて、札幌マラソンに招待されるまでに成長して『走る料理研究家』なんて言われたりして(笑)。いまでは真夏に300kmの距離を走っても大丈夫な身体になりました。これもやはり、プラントベース、アスリートフードのおかげだと思っています」
プラントベースが身体を強く、健やかにするメカニズム。
アスリートフード研究家で自らもトレイルランの大会に出場している池田清子さん。彼女は「アスリートこそプラントベースの食事にしたほうがいい」と力説する。そのポイントとなるのが「炎症」だ。炎症そのものは身体の反応なので必ずしも悪いことではない。しかしアスリートが行うトレーニングや試合などの激しい運動の場合、かなり過剰な炎症が体内で起きてしまうため、この急激で過剰な炎症をいち早く取り除くことが疲労回復のためには欠かせないのだという。では、炎症を取り除くにはどうすればいいのか?それが、抗炎症作用のあるアルカリ性食材を摂ることで、その主たる食材が野菜やフルーツなのだ。
池田祐樹「かつてはぼくもトレーニングが終わったら、スタミナつけて疲労回復だ!といって焼肉をガンガン食べていました。ところがお肉をはじめとする動物性の食材や加工油脂は酸性の食材であり、むしろ疲労で起きている体内の炎症に食物で炎症を重ねてしまう事になると知って驚きました」
アメリカの元チームメイトのアドバイスを受けてプラントベースを導入したところ、疲労回復のスピードが格段に上がったのを実感したのだそうだ。「植物性食材は動物性食材に比べ64倍もの抗酸化作用をはじめとする大量の抗炎症パワーが自然に備わっているからです」と話す池田清子さん。また野菜やフルーツなどを中心にした消化に良い食事は、内臓が消化に使うエネルギーを身体全体の疲労回復に回せることもその理由のひとつだということだ。
ヴィーガン食と相性のいい、サン・クロレラ製品。
そんないいことづくめのプラントベースではあるが、ひとつだけ注意点がある。それはビタミンB12という栄養素が不足がちになるということ。ビタミンB12は主に肉や魚に多く含まれ、血液をつくるのに重要な役割を果たすとされる。また神経系や代謝系に関わってくる栄養素ともいわれている。しかしビタミンB12は必要なときに備えて肝臓に蓄積されるという研究もあり、ヴィーガンであっても突然枯渇してしまうわけでは決してない。では、ヴィーガンはどのようにしてビタミンB12が不足しないようにしているのか?
池田祐樹「私たちベジンジャーズのメンバーの多くは、ビタミンB12をふだんサン・クロレラの製品から摂取しています。クロレラはそもそも藻を丸ごと粉砕してつくられているプラントベース・ホールフード。タンパク質の含有量はお肉が20%程度なのに対し60%もあり、他にもアミノ酸やビタミン、ミネラルなど60を超える栄養素がバランス良く含まれているので、プラントベースを実践する上でとても助かっています」
一ノ瀬メイ「私はパウダーのほうを飲んでみたんですけど、抹茶みたいな味がしてめっちゃ飲みやすかったです。私たちヴィーガンにとってビタミンB12を補ううえでのいろんな選択肢があるなかで、クロレラは天然のもの、しかもホールフードなので安心して摂れるのがすごくいいなあって思います。あと植物性食品中心の食生活を続ける私たちにとって不足しがちな栄養素であるビタミンB12を植物性食品から摂れるというのも大きなことですよね」
島田大陸「ぼくはオーツミルクに入れて抹茶ラテっぽくして飲むのが好きですね。あと、ぼくたちアスリートにはドーピング検査があるので、たとえばどんなに高熱があろうが花粉症でしんどかろうが気分が悪かろうが、アンチドーピング検査を受けて通っているもの、もしくはスポーツファーマシストと呼ばれる専門家に薬の名前を伝えて「飲んでいいよ」とオッケーをもらうまでは、どんな薬であろうと飲むことができない。漢方薬やサプリなんかでも同じです。その点、サン・クロレラさんの商品はアンチドーピング認証を取られているので、アスリートにとってはすごく安心だなっていうのもありますよね」
池田清子「私は飲みやすい粒タイプを飲んでいます。粒子の細かいパウダータイプのものはお料理にも使えるのですが、グルタミン酸が多く含まれているのでカレーなどに入れると旨味がアップして味に深みが出ますよ。他にもクロレラうどんがすごくおいしいのでおすすめです」
まずは一食だけプラントベースにすることから始めてもいい。
イベントの最後には来場者からの質問に答える質疑応答の時間が設けられ、オンライン参加の人からも含め、数多くの質問が寄せられた。そのなかで「ヴィーガンを導入したいと思っているが子どもがいて手間やお金もかけられず、また家族の食の好みもあって、なかなか本格的にチェンジするのにハードルが高いと感じることがあるが、どうすれば気軽に導入できるか?」という誰もが感じる普遍的な質問があったので、メンバーからの回答を紹介したい。
池田清子「先程も話に出たんですけど、カレーはヴィーガン食にしやすいのでおすすめです。いまは野菜だけを使ったカレールーやカレーペーストがスーパーで気軽に買えるようになっていますし、それもスパイスを使った本格的なものも簡単に手に入る時代。いろんな味のものが出ているので、あれこれストックしておくといいと思います。あとはオーガニックの豆缶が比較的手軽な価格で手に入るので、お肉がわりに使うと便利ですよ」
池田祐樹「もちろん大豆ミートもいいですし、レンズ豆は火が通りやすいので下茹でもほとんど必要なくそのまま煮込めるので、レンズ豆を使ったキーマカレーだとぼくでもサッとつくれちゃうからおすすめです」
一ノ瀬メイ「ボロネーゼもひき肉の代わりにちっちゃいレンズ豆を入れるとおいしいですね。あと私が好きなのは『豆じゃが』。レシピは肉じゃがそのままで、お肉の代わりを大豆にするだけ。いままでつくっていた料理そのままで、お肉の部分だけを豆や油揚げに変えてみるというのが最初はすごくやりやすいんじゃないかな。あともしレシピに困ったら清子さんのインスタを見てもらったらいいと思います。私もいつも参考にしているので、ぜひ皆さんも参考にしてもらって、気軽に菜食を始めてもらえたらなと思います」
池田清子「いまメイちゃんが言ってくれたように、レシピそのままで肉を豆に変えるとか、おダシを鰹ダシではなく昆布や椎茸を使ったものにするとか、ちょっと変えたり工夫したりするだけで始められるので、本当に難しく考えずに、ルールに縛られずに、まずは試してほしいですね。ひとまず一食だけ菜食にしてみるとかでもぜんぜんオッケーですよ」
春の京都らしい柔らかな午後の光が差し込む会場で行われた今回のトークイベント。終了後にはメンバーと来場者が揃って記念撮影が行われるなど、あたたかい雰囲気に包まれていた。毎日の食事というきわめて個人的な営みが、世界の貧困問題や地球環境問題まで一直線で繋がっている。しかもそれを学術的なコンベンションなどとは違い、もっとリラックスした空間で語り合えるからこそ、自分のこととして心でスーッと理解できる。ゆえに、いますぐなにかアクションしてみたくなる。そんなポジティブなエネルギーに満ちたイベントだった。自分でできることを、自分がやる。それこそが変化の近道である。それは身体の声に耳を傾け、日々努力を積み重ねてきたアスリートがもっともよく知るメソッドであり、それこそが現代のあらゆる問題に対して求められることなのかもしれない。