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Vol.53
18歳が描くバスケの世界地図
プロとして迎えたファーストシーズンで見えてきた自分の立ち位置。

岡田大河
バスケットボールプレーヤー /Zentro Basket Madrid・SHIZUOKA GYMRATS

18歳が描くバスケの世界地図 後編
2022/07/29

昨年9月にインタビューをした際には、3年目のシーズンを「勝負の年」と掲げ、飛躍への期待と意気込みを熱く語っていた岡田大河選手(前回のインタビューはこちら)。その勝負のシーズンで彼はプロ4部「EBA」での契約を勝ち取り、さらなる高みへと一歩ずつ確実に成長を続けている。

スペインから見た日本のバスケットボールの現状や日本代表への思い、チームを勝たせる存在になると語っていた彼が、今シーズンどのようにチームを勝たせ、具体的にどんな点で成長を遂げたのか、そして最後に、さらなる飛躍を目指すべく来季へと向けた決意などを語ってくれた。

スペインから見てもレベルの高い日本のバスケットボール


わずか15歳の少年がたったひとりでヨーロッパへ渡り、欧州のバスケ大国スペインでパイオニアとして挑戦を続けている。勝負の3年目でプロ4部であるEBAでの契約を勝ち獲り、そこでも周囲を驚かせる活躍を見せた岡田大河選手。その彼の目から見て、現在の日本のバスケットボールはどのように映っているのだろう。

岡田大河「Bリーグはけっこう観ています。すごくレベルが高いですよね。いまはスペイン一部ACBやユーロリーグ、NBAでやっていたような, スペインでは誰もが知ってる有名選手がどんどん日本にやってきているし、そうしたスタープレーヤーだった選手たちと日々練習を重ねることで日本人選手のレベルもどんどん上がっているように感じました。いい環境が日本に出来つつあるんだなということがわかります」

その中でも彼は、川崎ブレイブサンダースのシューター、マット・ジャニングの名を真っ先に挙げた。マット・ジャニングはスペインのバスコニアという有名チームに所属していたスター選手。次いで去年のMVPでスペイン代表候補でもあるアルバルク東京のセバスチャン・サイーズや、川崎のパブロ・アギラールやニック・ファジカスの名前を挙げる。こうした選手たちは、彼が所属するスペインのチームの同僚も当然のことながらよく知っているスターで「え?彼らみんながいま日本のチームでプレーしてるの?」と驚きを隠せない表情で聞いてくるのだそうだ。それだけ日本のBリーグにはすごい選手が集まってきているということなのだ。

岡田大河「日本人の選手だと、冨樫勇樹選手はもちろんですけど、個人的には齋藤拓実選手が気になってますね。アシストとかもそうですけど、彼はファンタジスタなんでプレーがめちゃくちゃクリエイティブ。もちろん参考になるっていうのもあるけど、やはり戦ってみたいなっていう思いも正直ありますね」

彼がそうしたスタープレーヤーの話をする時の表情は、もはや憧れの選手について目を輝かせて話す少年のそれではなく、ひとりのライバルであり、自分がめざすべき道を先行している目標として見据えているように感じられた。

また日本代表への思いにも、少しだが変化が見られた。前回のインタビューでは東京2020大会の直後だったこともあってか、渡邊雄太選手や八村塁選手の名前を興奮気味に口にしながら、「いつか自分もあそこに立ちたい」と率直な思いを語ってくれていた。しかし、今回は幾分か冷静な語り口で、自分の立ち位置とやるべきことについて分析してみせた。

岡田大河「自分が所属するZENTRO BASKET MADRIDや相手チームにも、スペインはじめ各国の、各年代の代表や代表候補選手がいます。当然ぼくもいずれは日本代表でプレーしたいという思いは変わりありません。ただ、いまはあまり意識しないようにしています。まずは自分がスペインで活躍すること。どんどん成長して上のカテゴリに上がっていって、さらにそこでも活躍していければ、必ずチャンスはあるかなって思っています。やはり自分がふだんプレーしているリーグで評価されるプレーを続けることが大事。いまのところスペインではチームメイトやコーチ陣のみならずオーナーにまで、ぼくのプレーやチームへの貢献、練習に取り組む姿勢などを高く評価してもらえていますから」

そうした内外での評価や実績を積み重ねていけば、スペインでのキャリアも高まり、そうなれば結果として日本代表に呼ぼうという声も出てくるはず。だからまずは与えられた環境で、しっかり結果を出すことを優先したい。すこし大人になった岡田大河選手の言葉からは日本代表が、子どものころからの「憧れ」から、選手としてめざすべき「目標」へと着実に変わっているのを感じた。

ゲームの流れを変え、勝負を決められる選手であるために

では、彼はそのバスケ大国スペインの地でどんなバスケットを志し、どのようなプレーヤーになろうとしているのか?前回のインタビューでは「バスケIQ」という言葉とともに「チームを勝たせ続けられる選手」というキーワードが多く聞かれた。その点について岡田大河選手自身に分析してもらったところ、バスケIQはつまるところ「状況判断」に尽きるという。

とくに彼はポイントガードというチームの司令塔を担うポジションであり、しかもジュニアチームではチームリーダーとしてチームを引っ張る存在であることが求められている。自分の強みであるテクニックを活かして突破し、自ら得点を狙うのか?あるいは相手ディフエンスを引きつけておいて、味方にパスを出すのか?そのときのゲームの状況や味方のフォーメーション、相手の守備位置などを瞬時に判断して選択しなければならない。ポイントガードというポジションでいる以上、この課題は今後バスケット人生が続く限り、ずっとつきまとってくる。だからこそ自分の中でよりはっきりとした判断基準を持っていなければいけないと岡田大河選手は語る。

岡田大河「プレー選択や状況判断をするうえで、大事なのは試合の勝負ポイントを見極めることなんだと思います。ゲームの流れを変えるたったひとつのプレー。勝負を決定づけるシュートや、苦しい局面を打開してチームを勢いづけるパスというのがあるんです。たとえば一点差で負けているゲームでお互いにシュートが入らない状態が1分以上続いているとき次の1点を自分たちが取ることで流れが変わる。逆にそこで自分たちが決定的なシュートを外した瞬間、相手にスリーポイントを連続で決められたり。そうした勝負どころで自分のシュートやアシストが決まらなくて勝ちきれなかった試合が、とくにEBAのレベルではいくつもありました。逆に自分がそこでしっかり仕事できた試合は勝てているんです。「チームを勝たせる選手」というのは、まさにそういう選手のことで、一流の選手はみんなそれができています。だからぼくはこれからも、ずっとそのことを意識してコートに立つことになるだろうという覚悟はしています」

めざすべき目標もライバルも明確になった新しいシーズン


弱冠15歳での海外ジュニアチームへのバスケ留学。そして17歳でのプロ4部EBAリーグ出場。ここまで誰もなしえなかった壁を着実に壊し続けてきた岡田大河選手の挑戦は、いよいよシーズン4を迎える

来季はまだどのカテゴリでプレーするかなど、詳細について具体的には決まっていないという。しかし彼自身は昨シーズンに続き、EBAでの経験をさらに上積みすることが最優先だと考えている。プロ4部EBAというレベルでもっと多くのプレイタイムを確保すること、さらには去年以上の活躍を披露することで、コーチや同僚の信頼を勝ち獲ること。それが達成できれば、意外と早いタイミングでZENTRO BASKET MADRIDのトップチームが所属する「LEB Plata」でプレーするチャンスが訪れるかもしれない。

岡田大河「じつはEBAにはたくさんのリーグがあって、チームも70以上あるんです。ぼくらが戦っているマドリードの他にも、バルセロナ、カタルーニャ、さらに他の州にもそれぞれあるんですけど、マドリードのリーグはレベルがめちゃくちゃ高いんですよ。16チーム中トップ5あたりまでは三部「LEB Plata」のチームと同じくらい強いですからね。ぼくらはそのマドリードのリーグで12位だったんですけど、他リーグの1位と練習試合で戦ったら20点差をつけて勝ちました。しかもスタートの選手が2人ほど欠いてたにもかかわらずです。リーグによって差が相当あるのだなと感じました。だからスカウトの人やオーナーなんかも、ぼくがそういう高いレベルのリーグで結果を出していることはわかってもらえているとは感じています」

実力ある有名選手たちとマッチアップして自分の実力を測ることができたのも、マドリードのリーグでプレーできたからこそ。自分のスキルを磨き、価値を高めるうえでとてもいい環境でプレータイムを確保し、しかもある程度結果が出せたという手応えもあった。ジュニアにはない心地よい緊張感と、コーチからの高いレベルの要求、さまざまな気づきを得た岡田大河選手は、来季、さらに高いステージをめざして新しい一歩を踏み出そうとしている。

しかも彼には、来季どうしても結果を求める理由があった。というのも、彼同様バスケ留学でバスケットボールの本場アメリカのNJCAA(全米短期大学スポーツ協会)のバスケットリーグにチャレンジし、アリゾナ女子大学バスケットボールチームに所属している姉の来夢さんが、いきなり全米ベスト8という結果を残したのだ。しかもチームが連勝に次ぐ連勝を重ねるなかで、しっかり自身のプレータイムを確保したうえでの快挙だった。もちろん姉の華々しい活躍を彼は自分ごとのように喜び、応援した。アメリカとスペイン、大西洋を挟んでさまざまなコミュニケーションもした。父の卓也さん曰く「日本にいたときは家ではあまり話さなかった」という姉弟が、互いのバスケット観や、それぞれが置かれた環境について話し合うようになった。いちばん身近なところに現れた、いちばん負けたくない存在。支え合う家族でありながら、高めあうライバルでもあるのだ。おそらく来季が終わる2023年の夏の終わりには、スペインとアメリカそれぞれから、同じファミリーネームを持つ、若き日本人バスケットボールプレーヤーの活躍が届けられることだろう。