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Vol.71
ブルーな雨と、オレンジの暁と。
チームビルドに苦労した120期が、全日本マーチングコンテストでの3年連続金賞を獲得するまでの軌跡。

京都橘高校吹奏楽部

ブルーな雨と、オレンジの暁と。後編
2024/01/31

日本のみならずアメリカや台湾など世界中のオーディエンスを熱狂させている京都橘高校吹奏楽部。2023年はニューズウィークの「尊敬される日本人100人」にも選ばれ、ますますその人気は高まるばかりだ。しかも今年度は京都橘高校史上初となる全日本マーチングコンテスト3年連続金賞という偉業を達成。とくに部長の中島さんやドラムメジャーの野口さんら120期生たちにとっては、入学からの3年間をすべて金賞で終わらせることができたともあり、ひとつの集大成を迎えた1年でもあった。
そこで後編では、当事者である部長の中島さんやドラムメジャーの野口さん、そして来年度の新部長に任命されたばかりの熊谷さんと新ドラムメジャーの鎌田さんに話を伺い、今年度の振り返りや来年度への抱負、そして京都橘吹奏楽部で学んだことなどを語ってもらった。

次代へと受け継がれていく、京都橘高校吹奏楽部のDNA

京都橘高校吹奏楽部史上初となる全日本マーチングコンテスト3年連続金賞がかかった120期。今年度のテーマには「Reach the Peak(頂点を超えて)」を掲げた。このフレーズには「限界を自分たちで決めてしまわず、もっと先へと進んでいこう」という思いが込められている。と同時に、今年だけのことではなく、来年度以降にもつながるような普遍的なテーマにしたからだと語るのは部長の中島さんだった。

中島さん「昨年度よりもさらに磨きをかけた演奏や演技をめざしたいと考えました。限界を作ってしまったらそこでで終わってしまう気がしたからです。だから今年度だけじゃなくて来年度にもつながるものにしたかったし、さらには10年後20年後もどんどんレベルアップしてほしいという思いを込めて “Reach the Peak”としました」

そう話すと横で聞いていた兼城氏も「それは初めて聞いたし、聞けて良かった」と眼を細める。今年度は苦労したぶん、とくに部長の中島さんとドラムメジャー(DM)の野口さんは、リーダーとして、人間として、この一年で大きく成長したという。

中島さん兼城先生もお話しされていたとおり、今年度の最初はチーム作りの部分で難しい時期を経験しました。でもそのおかげで大きく成長できたと感じることもたくさんあります。とくに視野が広くなったこと。部長になったことで、部を客観的に外側から見ることができるようになり、それによって部員ひとりひとりの小さな変化にも気づけるようになりました」

野口さん「私も人間的に成長できたと感じています。とくにDMになって運営する立場になったことで、こうして演奏活動や練習できるのは多くの人に支えられているからだと気づき、それまで以上に感謝の気持ちを持つようになりました。あとはどんなに苦しいときでも、つねに笑顔と明るさを保つことの大切さを学べたことは、きっと社会に出たときにも役立つと思っています」

そうして迎えた9月23日に開催された関西マーチングコンテストで、京都橘吹奏楽部はこれまでとは見違えるほどに素晴らしい演奏を見せた。もちろん、もともとそのポテンシャルはあったのだが、これまでチームビルドに苦労し、なかなかうまく自分たちの力を出すことができていなかった。それが夏を超えた途端にチームとしてのまとまりも感じられるようになっていた。見事に金賞を受賞して全国大会への出場を決めると、続く11月19日に開催された全日本マーチングコンテストでも圧巻のパフォーマンスと伸びやかな演奏で、念願の3年連続金賞を勝ち取ったのだった。

中島さん「熊谷さんには、とにかくパーっと華やかな輝きがありました。挨拶ひとつとっても他の人とは違うというか、とにかく明るさと前向きさが印象的で、彼女なら部長を安心して任せられるという確信が私のなかでありました」

野口さん「新DMに鎌田さんを選んだ理由は、彼女は私と同じクラリネットパートだったのでよく話をする機会があったのですが、パート練習の頃からとにかく気づく能力、客観的に周りを見る力が優れていました。この1年間のあいだで私がパートを抜けているときも、ずいぶん彼女に助けられました」

こうした先輩たちからの言葉を受けて、2人の新リーダーには選ばれた今の心境と、来年度に向けた意気込みを語ってもらった。

熊谷さん「私はずっと中島さんが部長としてクラブを引っ張っている姿をそばで見てきました。だから任命されてすぐは、本当に自分にできるのか?という不安や重圧のほうが大きかったのですが、少し経っていまは自分なりにこうしていきたいという思いが生まれ始めています。大変な役割ですが、だからこそ成長できる部分も多いと思うのでやり遂げたいです」

鎌田さん「私も最初は不安な気持ちでいっぱいでしたが、なにより来年度のDMとして自分がローズパレードで先頭に立てるということがとても光栄ですし、楽しみだなあといまは思っています」

3年連続金賞という結果よりも大切にしたかったことがある

シーズン序盤はチームビルディングに苦しんだものの、夏の終わり頃から徐々にまとまりを見せ、例年のチームと比較してもまったく引けをとらない素晴らしい演奏とパフォーマンスを発揮し始めた京都橘高校吹奏楽部120期。9月の関西マーチングコンテストを金賞で勝ち抜くと、去る11月19日に行われた全日本マーチングコンテストでも、見事に3年連続金賞受賞という快挙を果たした。そのとき感じたそれぞれのリアルな思いを尋ねてみた。

中島さん「じつはプレッシャーはとくに感じていませんでした。それよりも120期の部長として去年を超える演奏がしたいという一心でした。とはいえ、それでも金賞をいただけたときには、やっぱりうれしさのあまり自然と涙が溢れてきましたね。年度はじめは思うような演奏ができずに、苦しい思いをすることも多かったので、諦めずにここまでやってきて本当に良かったと思います」

野口さん「私もたくさんのお客さんに見ていただけたことが本当に楽しかったですし、私もお客さんに楽しんでほしいと思って演奏しました。ここまでたくさんの人に活動を支えていただいた結果だと思っています。そして私たち3年生は1年のときから3年間ずっと全日本マーチングコンテストで金賞で終われました。そのことは誇りに感じています」

熊谷さん「私は緊張やプレッシャーよりも、これだけの大舞台で音楽を演奏できるよろこびの方が大きかったです。本番は自信を持って臨めましたし、これまでやってきたことを信じていい演奏ができたと思います。来年は部長として必ず大阪城ホールへ戻ってきて、また金賞を取りたいです」

鎌田さん「じつは私はプレッシャーを感じていました。中学生のときに全国大会に進むことができなかったので、どうしても全国大会に進みたいという気持ちが人一倍強かったからかもしれません。でもいまは念願の全国大会で金賞を取ることができたという達成感と充実感でいっぱいです。数多くあった本番のなかでも、いちばん幸せな6分間でした」

思いはそれぞれだが、明るく、楽しく、元気にという部分は共通していた。もちろん、それが京都橘高校吹奏楽部の個性だからではあるのだが、脈々とその伝統が個々の生徒ひとりひとりに受け継がれ、浸透していることに、3年連続金賞を獲得した強さの秘密のようなものを感じた。

台湾をはじめ世界中にファンがいることへの思いとは

京都橘吹奏楽部には、台湾をはじめ多くの海外ファンが存在している。YouTubeのコメント欄には日本語のみならず英語や中国語などが並び、台湾ツアーに続き、アメリカでのローズパレードへの参加も決まるなど、海外からも多くのオファーが当たり前のように届いている。高校のいち部活の吹奏楽部に、ここまで注目が集まることも珍しいことと言えるだろう。そんな状況にあって当事者である4人はいま、世界中からオファーが届くことについてどう感じているのだろうか。

中島さん「活動を通じて海外に行かせていただけることはすごく貴重なことですし、幸せというひと言に尽きますね。みなさんに元気を与えられる演奏をといつも思っていますが、逆に私たちが元気をもらっています」

野口さん「海外に行くことで日本とは異なる文化を体験できたりもするのも、今後の人生に役立つ経験だと思いますし、なによりとっても楽しいです。いまでも連絡を取り合ったりする友人が海外にできることもうれしいこと。たとえ言葉は通じなくても、音楽は通じているんだなといつも感じています」

熊谷さん「私はやっぱり京都橘高校の部活動で海外に行かせていただくことが増えて、海外の人と交流する機会も多くなってきたことで、英語を勉強するモチベーションが高まりました」

野口さん「YouTubeやSNSなどでたくさんの海外の人からのコメントを見ていると、遠く離れた海外の人たちにも京都橘高校吹奏楽部のことを知ってもらえている、応援してもらえている、ということが実感できて本当にうれしい気持ちでいっぱいです」

台湾で一緒に演奏する機会があった現地の高校生たちとは、いまも交流が続いているという。ニューズウィーク誌で「尊敬される日本人100人」に選ばれた際など、折に触れて贈り物が送られてくるなど、いつだって気にかけてくれているのだという。また、部員が海外に視野を向けるきっかけになっていたり、英語を勉強するモチベーションになったりと、吹奏楽だけではなくさまざまな影響をもたらしているようだ。そしてそれは卒業後の将来の夢にもつながっていく。

中島さん「私はもともと看護師になりたいと思っていたのですが、台湾へ行ったのをきっかけに、日本だけでなく世界で活躍できる看護師、医療従事者になりたいと思うようになりました」

鎌田さん「私の夢はキャビンアテンダントになることです。去年の台湾での演奏の際に飛行機に乗ったとき、そこで初めて仕事を通じて世界の人と関わる仕事ができたらいいなと思うようになりました」

熊谷さん「私は弁護士になりたいと考えています。弁護士は人とのコミュニケーションを通して、それぞれの人の悩みや考えに触れる機会が多い職業だと思ったからです。私はやはりコミュニケーションや、人とつながりを持つことがとても好きなので、弁護士を通じて困っている人の力になりたいです」

野口さん「私は海外とは関係ないのですが、中学校の先生になりたいと以前から思っていました。なぜなら子どもたちの多くが中学で吹奏楽に出会うことになるからです。初めて吹奏楽を始める子どもたちに音楽を教える人になれたらいいなと思いますし、いずれは兼城先生のような指導者になることが夢です」

ここで中島さんが兼城氏に「なぜ先生になったのですか?」と質問する。兼城氏はすこし考えると言葉を選びつつ、話しはじめた。

兼城「大学を卒業してドイツにトランペットの勉強をしにいったんだけどね、あんまり上手くいかなかったんだよね。留学費用もかかるし、お金も続かなかった。でもいちばんの理由は、ドイツである演奏会を聴きに行ったとき、ふと『プロの演奏家というのはこうしてプロの演奏会に通える人たちにしか自分の音楽を伝えられないんじゃないか?』と思ったことなんだ。だけど学校の先生だったら、もしかしたらぜんぜん音楽に興味がない子どもたちにも音楽の素晴らしさを伝えられるかもしれない。それで音楽教師をめざすようになったんだ。帰国してすぐに教員試験を受けた。でもいまでも自分が先生に向いているかというと、そう思ったことはいちどもないかな」

こうしたプライベートな話は、ふだんあまり口にしないという兼城氏。生徒たちにとってもこのインタビューは、貴重なコミュニケーションの機会になったかもしれない。

京都橘高校吹奏楽部に憧れている中学生へのメッセージ

中島さん「なによりの魅力は楽しいこと。この部活でしか味わえない経験ができること。たくさんの本番に招待していただいて、いろんなところへ演奏しに行くことができること。その楽しさがいちばんです。そして学びや気づきがたくさんあって、人間的に成長できるので、ぜひみなさん入部してくださいね!」

野口さん「京都橘高校吹奏楽部に入部すれば、一緒に楽しさを共有したり、苦しさを乗り越えたりできる仲間がいます。そして音楽の素晴らしさを教えてくれる兼城先生もいらっしゃいます。絶対に充実した3年間になると思うので、ぜひ入ってほしいです」

熊谷さん「技術面はもちろん人間性の面でも、絶対に自分の成長につながるので、一緒に音楽を楽しみましょう」

鎌田さん「私も中学生のときに京都橘高校に入りたくてウズウズしていた側なのですが、実際に入ってみても本当に入って良かったなって心から思えるクラブです。大好きな音楽に青春を捧げるのに最高の環境。それが京都橘吹奏楽部だと思います!」

兼城氏の口癖のひとつに「人間性が音楽に出る」というのがある。120期という楽団を1人の人間として喩えるならば、その人間性によって奏でられる音楽は、楽しげなメロディと軽やかなリズム、底抜けに明るい音色のなかにも、隠し味のような不協和音が微かに潜んでいる、といったタイプのものかもしれない。しかしそれは、むしろ演奏に深みを与える効果をもたらしているだろう。止まない雨はないし、明けない夜はない。兼城氏が「雨降って地固まる」と表現したように、深夜の暗い海の上に降るブルーの雨が止んだ後には、オレンジ色をたたえた暁の空が広がっていくばかりである。あとにはもう輝かしくも新しい明日しかないとでもいうように。