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Vol.72
キス・アンド・クライを、すべての人と。
完璧主義者だった彼女が“大人のスケート”を習得してたどり着いた、自分を許すことの優しさと強さ。

小松原美里
フィギュアスケート アイスダンス

キス・アンド・クライを、すべての人と。 後編
2024/03/11

大人の演技と余裕を手に入れた小松原美里選手。周囲のサポートや精神的な支えによって、メンタル面での成長が著しい今シーズンだった。その成果は先日の全日本選手権での優勝というかたちでしっかりと結果を出すことに成功した。そこにはスタッフやファン、身近な人たちだけではなく、同じフィギュアスケートの仲間の繋がりがあったという。
いっぽうで30代に入った彼女は名実ともにベテランと呼ばれる領域に突入。とりわけヴィーガン・アスリートとしても知られる彼女が、世界中を飛び回り、ハードなスケジュールのなかで大会やトレーニングをこなすうえで、フィジカルでの変化にもこれまで以上に気を配る必要があるという。
後編では、フィギュアスケートの仲間たちへの信頼とリスペクト、そして自身のフィジカルとどう向き合い、その変化にどう対応してきたのかについて語ってもらった。

“すべてのスケーターを尊敬する” 彼女が語ったその真意とは。

フィギュアスケーターは、オフアイスでもとりわけ仲が良いことで知られている。小松原美里選手もふだんからほかの選手と食事に行く機会も多く、じつはこのインタビューが行われた翌日にも、坂本花織選手と樋口新葉選手と4人達で集まって出かけるのだと教えてくれた。彼女曰く、とくにこのふたりとは2022年北京大会の前から、種目は違えど、お互いに支え合ってきたこともあり、仲間意識は強い。

小松原「4年前くらいに花織ちゃんに緊張とどうやって対峙してるの?って聞いたことがありました。彼女は『むしろ緊張しているほうがいい演技ができるよ』というんです。緊張していなかったら、あり得ないような凡ミスをしてしまうこともあるので、適度に緊張しているほうが逆に集中できていいという彼女の話を聞いて、これまで私はそんなふうに考えたことなかったのでとてもビックリしたことを覚えています。でもよくよく考えてみたら自分も確かにそうだと思い当たり、そこからヒントを得て演技前にあえて鼓動を高めるために走ってみたりするようになりました。そうやってお互いにいまの課題や感じている不安なんかもシェアして助け合っているんです。もしかしたらそれは、みんなも年齢と経験を重ねて、より緊張度が高いなかで滑らなきゃいけない局面が増えてきたことも関係しているのかもしれませんね」

仲間意識が強く、日頃から多くの選手がそれぞれにコミュニケーションを深めて高め合うフィギュアスケートの選手たち。それは単に仲がいいというだけではなく、互いへのリスペクトからくるものでもあるのだろう。小松原美里選手に尊敬する選手は?と問うと「フィギュアスケートに取り組むすべての選手です」と即答するところからも、その思いが伺えるだろう。
なかでも彼女は今回の全日本選手権にも出場していた国村柚里選手の名前を挙げて、こんなエピソードを語ってくれた。

小松原「昨年、国村選手と街で偶然会ったんです。そのとき彼女はパートナーが見つからなくて苦しんでいました。かつて私にも長いあいだパートナーが決まらずに苦労した経験があったので、彼女の気持ちが痛いほどわかりました。でもだからこそ自分がそうだったように、いつか必ず理想のパートナーに出会えるから、挫けずにがんばってね、と伝えました。すると、これは後で聞いたのですが、私と話した3日後に社会人だった彼女がアイスダンスに全力を傾けるために仕事を辞めていたんです。それは私と全日本選手権で同じ舞台に立ちたいという思いだったそうです。その後パートナーも見つかり、彼女は全日本選手権出場という目標を実現しました。そういうすごい人がフィギュアスケートの世界には大勢います。それぞれの選手がそれぞれの場所ですごくがんばっている。だから私はすべての選手を尊敬しています」

フィジカルの変化にも対応できる、ベテランとしての知恵と自信。

2022年北京大会での経験と団体銅メダルという結果を経て、30代に入った小松原美里選手は、ここまで述べたようにメンタル面で安定し、大人のアスリートとして大きく成長した。それはファンの声援やコーチからのアドバイス、仲間との助け合いなど、周囲の温かいサポートに支えられてきたからだろう。
いっぽうでフィジカル面での変化も見えてきている。じつはNHK杯のころ、彼女は左膝の内側内腹側幅靭帯を痛めており、肋骨の一部を挫傷していたというのだ。そのケガには自分自身は気づいていなかったというが、治療にあたって感じたのはやはり完治までの時間が長くなっていることだった。NHK杯から全日本選手権まではおよそ1ヶ月。トレーニングと治癒のバランスを取ることがとても難しかったという。それでも全日本選手権では痛みもなくベストに近い状態で挑めたことが結果につながったと話す。たしかに若い頃と比べると痛みが引くのは遅くなった。しかし回復するための方法や怪我との向き合い方については、知識と経験が増えたおかげでうまく対処できるようにもなっている。さらには多くの経験と研究の成果により、よりムリのない滑りかた、無駄のない筋肉の使いかたができるようになったことで、スタミナ面ではむしろ若い頃より増しているというから驚きだ

小松原「昨年までと比べて大きく変わったのは食生活です。これまでは自分にとってベストの体型や体重を維持するために、あまり食べないという方法を採用してきました。しかしその結果、身体が危機を感じて悲鳴を上げ始め、脂肪の燃焼が全然できなくなっていたのです。それでますます食べるのが怖くなってしまった。このままではマズいと感じて、今年は意識的になるべくきちんと食べつつシェイプするように心がけてきました。そうしたら全日本では自分の理想とする体型を維持しつつ、スタミナも落とさず、良いチャレンジできたんです。これは私にとって大きな収穫になりました」

彼女にとっての理想体型は2018年から2019年のころだという。しかしそのときは体が衰弱してしまい、足元がフラつくようになってしまった。フィギュアスケートは美を競う競技でもあるゆえ、どうしてもスラリとした手足や細身の体型を維持することは欠かせない。またリフトにあたっては体重が軽いほうが有利だ。しかし細く、軽くなればいいというわけでもない。規定時間を滑り切るには、それに耐えられるだけの体力と強靭な筋力も必要だ。そのバランスが他の競技よりも難しいといえるだろう。とくにストイックな彼女にとっては尚更だ。しかし過去の経験から彼女も学んでいる。大人になり、メンタル的にもゆとりを持って臨むようになった現在の彼女は、今回新たな模索をスタートさせ、その滑り出しとしては順調だといっていいだろう。

ヴィーガン・アスリートでもある彼女は、遠征で海外を訪れるときはやはり苦労も多いという。たとえばヨーロッパでもドイツはわりと過ごしやすいのだが、ストックホルムや彼女がかつて住んだこともあるイタリアなどは難しいのだという。そして次の四大陸選手権が開催される中国もヴィーガンの選手にとっては難しい環境であるらしく、食材を日本から持って行くなどしっかりと準備をして臨みたいと、その意気込みを語ってくれた。

小松原「もちろん中国での四大陸選手権にも持って行きますよ!昨シーズンの四大陸選手権はアメリカのコロラドスプリングスで行われたんですが、標高1800mだったので、めちゃくちゃ疲れるんです。やはり高いレベルの大会になればなるほどトレーニングもハードになるわけですが、やりすぎると疲労が出てケガをしたりバーンアウトになってしまいがち。だから、いかに試合や練習の疲労を回復させるかが勝負の分かれ目になっていたりするので、私にとってサン・クロレラAパウダーは欠かせない。とくに私はヴィーガンなので食事からビタミンB12を摂取することが課題でもあり、その観点からもすごく重宝しています」

チームココ」も、いよいよベテランといわれる世代になってきた。西日本選手権では高橋大輔選手がふたりにエールを送り、全日本選手権では村元哉中選手も温かい応援の声を届けにきてくれたという。そのとき小松原美里選手は、互いに全力で競い、高め合っていたときとはまた違った、ふたりの声の温度の変化を肌で感じ取っていた。

小松原「とくに高橋大輔選手は私にとって、岡山時代からずっと憧れてきた先輩。その憧れのスターが同じアイスダンスの世界に舞い降りてきてくれたとき、喜びの気持ちと同時に、アイスダンサーとしては自分が先輩である以上、負けるわけにはいかないという、複雑で相反する感情もありました。しかしいま彼は引退し、またひとつ一歩先のステージへと歩みを進めていった。そうした長い長い歴史と関係性の変化のなかで、いまの彼から送られた応援の声は、これまで以上に温かく、また心強いものに感じられました」

2022年北京大会から今回の全日本選手権にいたるまでの過程で、さまざまな人たちの優しさに支えられ、励まされながら、名実ともに大人のスケーターへと成長を遂げた小松原美里選手。昨年末の全日本選手権で見事に優勝という結果を出し、続く2月の四大陸選手権においてもパーソナルベストでの日本人トップという文句のつけようがない圧倒的なパフォーマンスを見せつけた。

小松原「どんな困難な状況であっても、いまのいちばん自然な自分で挑む、という目標を設定して大会に臨み、そこで自己ベストを更新することができました。これはひとえに応援してくださっているみなさんのおかげですし、応援の声があったからこそ頑張れていると感じています。こんどはわたしからみなさんへの感謝の気持ちをお届けできるようなパフォーマンスをお見せしたいと思っています。本当にありがとうございました!」

いよいよこれで、彼女に残されたミッションはいまや世界選手権での日本人初となる10位以内達成のみとなった。全日本選手権の優勝でほぼ決まりと思われた世界選手権の切符が「保留」という異例の判断となっても、驚異的な集中力で乗り越え、四大陸選手権でしっかりと結果を出したメンタル面の成長を見る限り、その達成はかなり現実的なものとなったといえるだろう。そしてそのときは、チームココのふたりがキス&クライで最高の笑顔を見せてくれることを楽しみにしている。