髙橋藍
バレーボールプレーヤー
2024-25シーズンから生まれ変わった日本のバレーボールトップリーグ「SVリーグ」の顔として、コート内外で輝きを放ち、サントリーサンバーズ大阪の優勝に貢献した髙橋藍。トータル58試合に及んだ未知のシーズンを乗り切ることができたのは、食事管理や体のケアなど、アスリートの基盤を毎日怠ることなく積み重ねた成果だった。
長丁場でも高いパフォーマンスを発揮できた理由
2024-25シーズンのSVリーグは、レギュラーシーズンが44試合という今までにない試合数が組まれた。しかも、昨シーズンまで髙橋藍がプレーしていたイタリア・セリエAは基本的に試合が週1回だったが、SVリーグは土日の2連戦。チャンピオンシップのセミファイナルでは3連戦も経験した。
加えて、サントリーサンバーズ大阪は、12月に行われた天皇杯でも5試合を戦い優勝。さらにSVリーグ・ファイナルの6日後にアジアチャンピオンズリーグが開幕し、8日間で5試合を戦った。このシーズン、サントリーが挑んだ試合数は58にも及んだ。選手にとってはコンディショニングが何より重要で、難しいシーズンだった。
髙橋は、昨年イタリアでのシーズン中に負傷した左足首の痛みが再発したため、昨年11月に数試合欠場したが、それ以降はほぼ先発でフル稼働した。サントリーのアウトサイドヒッターは、経験豊富なポーランド代表のアレクサンデル・シリフカや、攻撃力の高いデ・アルマス・アラインなど実力者が揃っていたが、髙橋の安定したサーブレシーブはチームにとって欠かせず、代えのきかない存在だった。
週末の連戦が約7ヶ月続くという、誰も経験したことがなかったハードなリーグを、乗り切っただけでなく、髙橋はシーズン後半に目に見えて調子を上げ、チーム最多得点を叩き出す試合も珍しくなかった。長丁場のシーズン中、髙橋が心掛けていたこととは。
「とにかく休める時は休むということと、寝られる時にしっかり睡眠を確保すること、そして毎日セルフケアを怠らないこと。その積み重ねでしたね。それに、ちょっと体に違和感があった時に、無理をしないことですね。僕は昨年(イタリアでの怪我のあと)無理をしたことで、長引いてしまうという経験をしたので。だから今季はちょっと違和感があったら、無理をせずに少し休んで、コンディションを整えることがすごく重要だと。
例えば11月3日の東京グレートベアーズ戦のあとがそうでした。(左足首に)違和感があって、でも翌日もプレーできないことはなかったんですけど、あそこで無理をしてやってしまうと長引く可能性があったので、休んでケアするという判断をしました。その後1週休んで、2週間後の広島サンダーズ戦で途中から出て、体と感覚を戻していった。そこから本当に状態が上がっていったので、改めて無理をしないことは、シーズンを通して戦うために必要だなと思いました」
料理本を見ながら自炊のレパートリーも充実
もちろん、疲労を回復させ、新たなエネルギーを生み出すための食事も重視している。サントリーのトレーニング施設で摂る昼食以外は基本的に自炊。「自分は料理が好きなので、そこは苦にはならないですね」と笑う。イタリアでも自炊はしていたが、食事に関しては日本のほうが格段に充実していた。
「やっぱり自分が生まれ育った地なので。イタリアでは、向こうの食文化に合わせなきゃいけない難しさもあった。自分で和食を作ったりもしましたが、パスタやピザが多くなったりもするので、栄養管理するのは難しい面もありました。でも日本だと、日本食の素材も揃いやすいし、自分でしっかりと考えた通りにやれる。チームの昼食も栄養管理が徹底されているので、体調管理はやっぱり日本のほうがやりやすかったですね」
得意料理は、実家で教わったチンジャオロースから、本場イタリア仕込みのカルボナーラまで幅広い。同じサントリーに所属する兄の塁にも頻繁に手料理を振る舞った。
「塁はしょっちゅううちに来ます(笑)。いつもご飯を作るのは僕なんですけど、『洗い物だけはしていくわ』と言って、洗い物だけして帰っていきます。塁にもイタリアで学んできたカルボナーラを作ってあげたんですけど、『うまい!』と言っていました。日本でカルボナーラを食べた時に、『これはカルボナーラじゃなく、クリームパスタだ』と僕がずっと言っていたので、『じゃあお前作れよ』となって。『これが本場だよ』と教えたりました(笑)。
他にもいろいろなものを作りましたね。どんぶり系にするのが自分は好きなので、親子丼だとか。あとは豚丼を極めました。オリジナルでいろいろな味付けを試して。だいたい片栗粉をつけて肉を焼くとうまくなるということに気づきました(笑)。中華も好きなので、チンジャオロースや麻婆豆腐もよく作っていました。自分は料理本が好きなので、本を見ながら作ったり、あとは親に教えてもらって」
そうした自身での食事管理に加え、体調をより万全にするために心強い存在がサン・クロレラAだ。
「基本的に毎日粒タイプを摂取しています。栄養補給のような感覚で、寝る前だったり食後に。それとパウダーも、ウエイトトレーニング後にプロテインに混ぜて一緒に飲んでいます」
中学時代に始めたストレッチがしなやかなプレーを生む
ハードなシーズンだからこそ、同じルーティンで規則正しい生活も意識した。
「平日は、朝起きて、午前中は体育館にトレーニングに行き、昼ご飯を食べて、午後はボール練習。帰ったら自分でご飯を作って食事して、お風呂のあとは毎日両膝と足首に超音波を当てます。10分ずつで計40分から45分ぐらい。
そこからは自分の時間ですね。英語の勉強もします。日本にいると日本語で話ができちゃうから、やらないと忘れていってしまう(苦笑)。外国人選手とは英語で話すんですけど、イタリアにいた頃のほうがもうちょっとスラスラ出てきていたなと。だから英語のテキストを買って、1ページずつでも、本当に時間がなければ5分だけでも、パッと見るようにしていました。継続が大事だと思うので。あとはテレビを観たり、ゴロゴロしたり。それで11時か12時ぐらいまでには寝ます。睡眠時間は基本的に8時間はとりたいので」
忙しいシーズンの中でも、髙橋は時間の許す限り精力的にメディア活動も行った。その理由を、こう語る。
「一番はやはり、バレーボールを盛り上げていくためというのがあります。僕がメディアに出ることで、バレーボールを知らない方々にも、バレーに興味を持ってもらうきっかけになれば。そこからサントリーサンバーズ大阪やSVリーグにつなげていってもらったり、『1回試合を観に行ってみようかな』と思ってもらえたら嬉しい。1人のスポーツ選手として、メディアを通していろんな方に自分の素顔を伝えられるというありがたさもありますし、今しかできないという部分もありますから」
メディアを通して髙橋の姿を目にしたり、あるいは会場に足を運んで、バレーボールに興味を持ち、プレーし始めた子供たちもいることだろう。バレーに限らずスポーツに熱中している子供たちに、髙橋はこんなメッセージを送る。
「子供たちにはやっぱり好きなスポーツを心から楽しんでほしいし、全力で、夢を持ってやってほしい。スポーツをやっていると、そこからいろんなことにつながっていくので。僕自身も、今シーズン初めてCM撮影をさせてもらったり、いろいろな新しい経験をさせてもらいました。バレーボールを、子供たちの目に見えやすい形で、少しずつ夢のあるスポーツに変えていけているんじゃないかなという思いがあります。
体づくりの面では、自分は中学生の頃にストレッチをやり始めたことがすごくよかったと感じています。おばあちゃんに言われたことがきっかけで(笑)。僕は体が硬かったので、『体は柔らかいほうがいいよ』とずっと言われていたんです。『本当に柔らかくなるのかな?』と興味本位で始めてみたら、みるみるうちに柔らかくなって、それが面白かったので継続できました。
今も、体をリセットするために、毎日寝る前に30分ぐらいやっています。自分はストレッチをしないと、寝ている間に体がちょっと痛くなってしまうので。やはり体が柔らかければ可動域が広がる。ディフェンス面でも、体が柔軟なほうがボールに届く範囲が広がるし、怪我のリスクも減ると思います」
何事も楽しみながら継続する力が、自身の未来を切り開く。髙橋藍はこれからも自らのプレーと生き方で、それを体現していく。