Journal

サン・クロレラの取り組みや
サポートするアスリートたちのTOPICS。

Find out about Sun Chlorella's corporate activities and sponsored athletes

official site
Vol.87
頂への、一歩。
モナコでの2シーズンと日本代表での経験、そしてケガを乗り越えてたどり着いた場所で見た景色。

川崎ブレイブサンダース
岡田大河

モナコでの2シーズンと日本代表での経験、そしてケガを乗り越えてたどり着いた場所で見た景色。前編
2025/12/24

15歳で日本を飛び出し、スペインに渡ったバスケットボールの若き天才少年・岡田大河。年齢を重ねるごとに、その実力はもちろんのこと、所属するリーグのグレードも着実にステップアップさせてきた。2023年からはフランスリーグの名門ASモナコのU21カテゴリに所属しながらトップチームにも合流し、トッププレーヤーへの道を真っ直ぐに歩み続けてきた。ファーストシーズンはチームを史上初の2位に押し上げる立役者として、そして昨シーズンはチームからもファンからも認められる存在となった。

そんな彼が今季ついに日本でのプレーを選択。川崎ブレイブサンダースと契約し、満を持して去る10月11日のゲームでBリーグデビューを果たした。そこで、今回はヨーロッパのトップチームで得た自信や手応え、U19日本代表での経験や露呈した課題など、より高いステージへと飛躍する岡田大河選手の、いまの偽らざる心境を語ってもらった。

海と坂と山の街・モナコに溶け込むために。

2年前の2023年夏、15歳からおよそ4年間にわたって拠点としてきたスペインの地に別れを告げ、フランスの強豪ASモナコU21へと移籍した岡田大河選手。モナコではバスケットボールに集中できた2年間だったと振り返る。モナコは海と坂と山の街。オフの日にはこれまで行ったことのない場所や通ったことのない道を走りにいくなど、美しいモナコの街の散策を兼ねてトレーニングを楽しんでいたという。

岡田「モナコは本当に暮らしやすくて、コート外のことで煩わされることはまったくありませんでした。そういえば2月にギリシャで大きな地震があって、モナコも近いので結構揺れました。ぼくは日本で地震には慣れていたので全然平気だったのですが、チームメイトたちがすごくビックリして、あちこちに電話したりしてとても怖がっていたんですよね。ぼくがいたって冷静なのでそれにも驚いていました(笑)」

モナコでは選手やコーチ、スタッフなどチーム内でのコミュニケーションは、おもに英語とスペイン語。昨年のインタビューでは、チームの選手もほとんど英語が話せるし、トップチームでも英語しか使わないので、あえてフランス語の勉強に時間を割くよりは、もっと自身のプレー面でのスキルアップに集中したほうがいいと語っていた。しかしフランス語しか喋れないチームメイトがいるので、その選手とは拙いながらもフランス語でコミュニケーション取るように努めた。おかげでフランス語もプレーに必要なコミュニケーションや簡単な日常会話レベルならできるようになったという。街にもチームにもすっかり溶け込んだ岡田大河選手のモナコでの2シーズン目を振り返ってもらった。

「適応」と「挑戦」の、セカンドシーズン。

モナコへ移籍した最初のシーズンは、やはり初めて一緒に戦うということもあって、コーチの戦術に合わせるのに時間がかかったという岡田大河選手。しかしシーズンが進むごとにフィットしていったことやコーチが彼のスタイルを理解してくれたこともあって、その点での問題はなかった。いっぽうでチームメイトについては移籍一年目のときの主力メンバーがほとんど変わってしまったこともあり、昨シーズンはアジャストの面で苦労したという。それでも当初はプレシーズンが長かったので、そのあいだにフィットできるだろうと考えていた。しかしU21のチームとトップチームとを行き来する環境にあって、U21のチームに合流できるのが週末の試合の前日ということも少なくなかった。結果として連携面で合わせるのがすごく難しく、シーズン序盤はチームメイトとのプレー面でもふだんのコミュニケーションでも、あまりうまくいってなかったという面は否めなかったと自身の反省とともに振り返る。

トップチームとの往復という過酷な環境のなか、U21チームとのシーズン序盤における連携面での課題を感じつつも、それでも彼がトップチームとの練習でしか感じ取ることができなかったであろう手応えと、それに伴う自身の成長をひしひしと感じているという。

岡田「トップチームで練習していて感じたのは、オフェンス面ではほとんど差は感じないということでした。モナコのトップチームでプレーしている選手はそのほとんどがアメリカのトップリーグから帰ってきているすごい選手たちばかり。その環境で練習にもしっかりついていけたし、ひとりの選手として対等に戦えていました。ちょっと世界観が変わったといいますか、ここまでやれるんだっていう自信にもなりました」

とくに彼自身のストロングポイントでもあり、絶対的に通用すると以前から感じていた、周りを生かしたプレーや状況判断、チームをコントロールする部分だ。これについて岡田大河選手は、周囲のレベルが高くなればなるほど、自分の思い描いたプレーがデザインできるので、プレーを楽しめたり自身の成長を感じることができたと語る。

岡田「トップチームにぼくが目標にしているエリー・オコボという選手がいます。彼と一緒にプレーすると、ぼくがほしいタイミングでボールくれたり、ぼくがわずかなズレを作ったときに確実に活かすプレーをしてくれたりするんです。そうすると、どんどん自分のプレーの幅が広がったり、駆け引きの選択肢が増えたりするので、それがもう楽しくてしょうがなかった。だから練習がすごく楽しみでした。もちろんトップの選手と練習するのは求められる技術レベルも対人の圧もタフできつかったですよ。コーチからも『もっと強く当たれ』と言われ続けていましたし。それでもやはり高いレベルでプレーすることの楽しさをあらためて感じられた。そこが本当によかったことですね」

トップチームとの練習を通じて自信を深めた岡田大河選手は、昨シーズンの中盤以降、アシストランキングでもチームトップに食い込むなど、徐々にU21のチームとの連携も噛み合い、本来の力を発揮していく。U21リーグではじゅうぶん活躍できることは移籍直後からすでに証明済みだし、彼自身もわかっていた。逆にトップチームで活躍できないようではダメだと、自分にプレッシャーをかけながらやってきたのだ。「このぐらいはできて当然」。コーチからも求められるプレーの質はより高くなっていた。あとはプレー面だけではなく、自分がもっとチームのリーダーシップをとっていかなければならない。昨シーズンからはそうした新たな課題も自分に課すようになっていた。

課題という“希望”を見つけたFIBA U19バスケットボールワールドカップ2023。

2023年6月に行われたFIBA U19バスケットボールワールドカップ2023に日本代表として初選出された岡田大河選手。チームはベスト8入りという成績を残し、彼自身もその結果に大きく貢献した。じつはこれまで日本代表を目標にしたことはなかったという。しかし自分と同世代の日本人選手たちが日本代表として海外で戦っているのを目にし、しかも戦っているその相手が自分のチームメイトだったりするのを見るうち、すこしずつ彼のなかでも代表への想いが芽生えていたという。かつて在籍していたスペインのチームメイトが「いつか一緒にワールドカップで戦おう」と言ってくれていたことも大きかった。そんなタイミングでFIBA U19バスケットボールワールドカップ2023で日本代表として戦えたこと、とりわけ海外で彼が築き上げてきた実績が評価されたことは、彼自身にとってもいい選択だったと感じている。

岡田「ぼくにとってもありがたい経験だったし、学びも多かったですね。スペインでも、モナコでも、それから日本代表でも、どんな環境に身を置いたとしても、とにかく自分の力を信じ、自分のプレーを貫き通す責任感を感じました。プレーでねじ伏せると良く言いますけど、そういう圧倒的なプレーが求められているのだということ。もちろんコーチや監督の考えやチームのスタイルに合わせることも大事ですけど、最後は自分のスタイルを認めてもらう、認めさせる、ということも大事なんだと、そこは本当に痛感させられました」

日本代表ではふだんのチームとはチームづくりやその環境の違いにも戸惑う部分はあったという。たとえばそもそも代表チームは招集されてから本番までの期間も短く、練習の回数も少ない。その少ない期間のなかで、ふだん一緒にプレーしてないメンバーと連携プレーなどを高めていくことの難しさは当然ある。それでも、なかなか会うことのない日本人選手と一緒に練習や試合をできたことはすごくいい経験でもあり、楽しかったとも話してくれた。

岡田「あのとき集まった日本人選手はみんなポテンシャルを秘めたいい選手ばかりでした。なかでも最大のストロングポイントはシュート力。もちろん高さやフィジカルの面では海外の選手たちには敵わない部分ではあるけど、それでじゅうぶん勝負できるポテンシャルがあると感じていました。だから最終的な結果はベスト8でしたが、本当ならもっと上を目指せたチームだと思っています。シュート力のある選手にもっと自分がチャンスメイクしていいボールを提供できていれば、結果は違っていたと思うし、それを活かしきれなかったのは自分の力不足だと痛感しています。すごく悔しいし、いまはそれを克服するということがモチベーションになっています」

FIBA U19バスケットボールワールドカップ2023での悔しい敗戦には、後日談がある。ワールドカップを終え、モナコに渡った岡田大河選手を待っていたのは、コーチの思わぬアドバイスだった。モナコに着いた翌日にはすぐに練習試合が組まれていたのだが、その数日後にコーチから呼ばれ、彼自身がワールドカップで感じていた課題と同じ、周囲を活かすプレーについての厳しい指摘を受け、その強化を課題として突きつけられたのだ。

多くの選手にとってコーチから実力不足を指摘されることは、本来あまりうれしいことではない。しかし岡田大河選手は、むしろその指摘がすごくうれしかったと微笑むのだった。「きっとコーチはワールドカップでのぼくのプレーを見ていてくれていたんだとわかったんです」。自分がその身体とプレーで体感した自身の課題を、自分のチームのコーチが理解してくれている。それはポジティブなことである。この発想は、課題があることイコール伸び代があり、すなわち成長できるチャンスなのだと、つねにポジティブに捉える彼らしい考えかたであるといえるだろう。そして彼にとってU19代表選出は、いずれ訪れるであろうA代表選出、さらにはメダルをかけた舞台での活躍への序章だったといえるのではないだろうか。