「流通経済大トライアスロン部の杉原有紀選手の栄養管理をチェック」
小原選手に続いて、奥村(生産開発部研究開発グループ所属)がチェックするのは、同じく流通経済大トライアスロン部に所属する杉原有紀選手(21)。
2019年日本学生トライアスロン選手権(インカレ)3位をはじめ、2018年にはインカレ王者に輝くなど、国内有数の実力者だ。オリンピック出場を目標に掲げ、日々トレーニングに励む彼女のポテンシャルを、食生活習慣の観点から探った――。
①練習と練習の合間のおにぎり1個
1点目は、杉原選手はエネルギー源となる糖質が多く含まれるご飯、パン、麺などの摂取量が少ないように感じます。
糖質の摂取量が少なくなると、たんぱく質からエネルギーが作られるようになり、体内のたんぱく質の作り替え等に使われる量が少なくなると考えられています。さらに、脂質をエネルギー源として利用する際に糖質が必要で、体内の糖質量が少ないとエネルギー源として利用される脂質の量も少なくなるとされています。
「国際的にコンセンサスが取れたアスリートの糖質摂取の推奨量※」では、継続時間が「中程度」で、トレーニングの強度が「低い」場合、体重1kgあたり5~7gを目安としているので、最低でも体重1kgあたり5gの糖質量の摂取を意識されることをお勧めします。杉原選手の体重(空腹時49㌔)から必要な糖質量は245g。杉原選手の練習①~③の食事記録から推定で摂取されている糖質の量を算出したところ、練習①では208.7g、練習②では229.3g、練習③では208.6gでした。目標量の245gを摂るためには、今の食事内容に加えて、練習と練習の合間におにぎり1個、またはコンビニのサンドイッチ1個を追加する、もしくは昼と夜に食べる玄米ご飯を1杯半食べる必要があります。
なお、今の食事に糖質を追加した場合、エネルギーを追加することになるので、摂取量の調整が必要になります。杉原選手の場合、食事記録の推定からたんぱく質の摂取量が練習①で112.5g、練習②で117.2g、練習③で135.9gと平均で体重1kgあたり約2.4g摂取されています。
体のたんぱく質合成に利用される上限は体重1kgあたり2g程度と言われており、それ以上の摂取は効果がないと考えられていますので、たんぱく質の摂取量を体重1kgあたり2g、つまり杉原選手の体重から98gを上限として調整されることをお勧めします。
参考までに、1日で98gのたんぱく質を摂れるものは下記の食品などがあります。
▽1日で98gのたんぱく質を摂れる食事例
②普段のサラダに緑黄色野菜を1品プラス
2点目は、杉原選手の食事記録から緑黄色野菜が少ないように感じました。
緑黄色野菜とは、ほうれん草・ブロッコリー・ピーマン・トマト・にんじん・カボチャなど、色の濃い野菜のことを指します。
緑黄色野菜は抗酸化作用のあるβカロテンやビタミンCが多く含まれることから、活性酸素が多く発生しやすいアスリートには積極的に摂ることをお勧めします。
例えば、毎日食べているキャベツのサラダにプチトマト3個を追加する、またはピーマンやにんじんの入ったカット野菜を利用する、コンビニで緑黄色野菜のサラダを利用するなどの工夫をしてみてはいかがでしょうか。
では①、②のアドバイスを実際に取り入れようとした場合、杉原選手の1日の食生活習慣にはどのような変化があるのか。事前にいただいた食事記録をもとに再現してみました。
■春休みのある1日①(スイム2部練習の日:火・木曜日)※追加箇所は赤字、削除箇所は横線
■春休みのある1日の練習②(スイム2部練習の日:土曜日)※追加箇所は赤字、削除箇所は横線
■春休みのある1日の練習③(夜の練習がない場合)※追加箇所は赤字、削除箇所は横線
また高たんぱく質の食品を多く摂られている場合、摂取量に注意しなければいけません。前述の「1日で98gのたんぱく質を摂れる食事例」に挙げた通り、ご飯や野菜にも意外とたんぱく質が含まれますので、摂りすぎないよう調整する必要があります。また、手軽に摂れるおからパウダーやきな粉も、たんぱく質量を摂りすぎてしまう可能性がありますので、注意が必要でしょう。
以上、これまでのアドバイスをもとに、杉原選手の日々のコンディションに合わせながら上記に提案した食事メニューを参考程度に見ていただけたら幸いです。
本人も効果実感「集中しやすくなった」
今回、奥村は「練習と練習の合間におにぎり1個を追加すること」と「普段食べているサラダに緑黄色野菜を1品プラスすること」の2点を指摘した。これを受けて、杉原選手は「アドバイスを元に糖質の量を増やしてタイミング良く栄養補給が出来ることでトレーニングにも集中しやすくなった」と、効果を実感した様子。「バランス良く栄養を摂取することでパフォーマンス・集中力の向上や体調も良くなった」と、手応えを語っている。「おにぎり1個」+「緑黄色野菜プラス1品」という一見小さく見える工夫が、アスリートのさらなる成長を加速させるキーになるのだ。
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※国際的にコンセンサスが取れたアスリートの糖質摂取の推奨量
出典:L.M.Burke,et al. Carbohydrates for training and competition. Journal of Sports Sciences, 2011;29(S1):S17-S27