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2025/04/15
アスリートフードマイスターに聞く!Vol.28バスケットボール編 ハーパー選手&鈴木選手 前編

【アスリートフードマイスターに聞く!Vol.28バスケットボール編 ハーパー選手&鈴木選手】

今春に東海大学男子バスケットボール部SEAGULLSを卒業したハーパー ジャン ローレンス ジュニア選手と、新主将・鈴木暉將選手の2人にスポットライトを当てた。今回の食事記録のチェックは2024年11月~12月に開催された第76回全日本大学バスケットボール選手権大会(インカレ)初戦の前日および当日に実施。管理栄養士とアスリートフードマイスター2級の資格をもつ板津(株式会社サン・クロレラ)がそれぞれに重要なポイントや改善点をアドバイスした。

2日間の食事・活動記録をチェック

▼前編ではハーパー選手…身長180㌢、体重80㌔(空腹時)2日間の食事記録を整理します。

普段は寮でバランスよく食べているものの、土日や試合当日は自身で食事を用意することが多いハーパー選手。試合前は栄養バランスを意識して食事メニューを選択している印象を受けました。外食やコンビニでも、少しの工夫で栄養バランスを整えることはできますので、具体的な方法も含めて詳細を説明していきます。2日間の食事・活動記録は以下の通りです。

1日目(試合前日)
時間 食事内容・量 活動内容・トレーニング内容
 5:30 起床
 6:00 練習 ワークアウト
 7:45 朝食 ご飯(大盛り)、味噌汁、鮭、牛皿、白菜の漬物、ポテトサラダ、のり
 8:30 練習 ウェートトレーニング
 8:50-11:00 仮眠
 12:00 昼食 ペペロンチーノ(麺200g、ベーコン、キャベツ、鷹の爪)
 13:00- 16:00 練習
 18:30 夕食 ごはん(おかわり1回)、生姜焼き、卵スープ、キャベツの千切り、きゅうりキムチ
 23:00 就寝

【写真左:朝食】ご飯、味噌汁、鮭、牛皿、白菜の漬物、ポテトサラダ、のり
【写真中:昼食】ペペロンチーノ
【写真右:夕食】ご飯、生姜焼き、卵スープ、キャベツの千切り、きゅうりキムチ

★朝食(ご飯、味噌汁、鮭、牛皿、白菜の漬物、ポテトサラダ、のり)

朝食を摂らない、または多くの量を食べられない選手も少なくないなかで、ハーパー選手は主食(ご飯)、主菜(鮭、牛皿)、副菜(白菜の漬物、ポテトサラダ、のり)が揃った食事を摂ることができています。
さらに、一日を通して緑黄色野菜の量をもう少し増やすことができれば、より全体の栄養バランスが改善できると感じました。野菜にはキャベツやレタス、白菜、玉ねぎなどの淡色野菜と、ミニトマトやブロッコリー、ほうれん草、にんじんなどの緑黄色野菜があり、それぞれの栄養価に特徴があります。淡色野菜は色の薄い野菜と言われ、水分や食物繊維が多く含まれます。緑黄色野菜は、高い抗酸化力をもつβカロテンやビタミンCを多く含み、疲労の原因となる物質を軽減してくれる効果が期待できます。
例えば、味噌汁を豚汁に変更し、牛皿に青ネギをトッピングすることで野菜の摂取量を増やせます。また「豚肉+ねぎ」は、糖質をエネルギーとして利用するため欠かせないビタミンB1やその利用効率を高めるといわれるアリシン(硫化アリル)を摂取でき、試合前の食事にはおすすめの食べ合わせです。

★昼食(ペペロンチーノ※麺200g、ベーコン、キャベツ、鷹の爪)

昼食を摂るのが練習開始の1時間前であるのに対し、やや食事量が多い可能性があるのではないかと感じました。胃腸が消化を行っている間に運動をすると、腹痛の原因や動きにくさを感じることにつながると言われています。そのため、運動前の食事や補食は、満腹にならない程度に摂ることが望ましいです。しかしながら、食事量については個人差があるためご自身の体調と相談しながら都度調整していくことをおすすめします。食事量を減らす場合は、パスタを半量程度にし、練習後におにぎりやサンドウィッチなどの軽食で補うこともおすすめです。
パスタは糖質を中心とした食材で、試合前日の食事に適したメニューです。例えば温泉卵をトッピングしたり、トマトやブロッコリーなどを添えたりすると、さらに栄養バランスが良くなります。また、この日は乳製品が摂れていなかったため、粉チーズをトッピングして、カルシウムをプラスすることもおすすめです。

★夕食(ご飯、生姜焼き、卵スープ、キャベツの千切り、きゅうりキムチ)

主食(ごはん)、主菜(生姜焼き)、副菜(キャベツ、卵スープ、キムチ)が揃った献立になっています。また、糖質をエネルギーに変えることに役立つビタミンB群を豊富に含む豚肉を使った料理を選んでいて、試合前に必要な「エネルギーをため込む食事」を意識できていると思います。
朝食同様に、βカロテンやビタミンCを豊富に含む緑黄色野菜をプラスして摂れると理想的です。これらの栄養素は、体の機能を正常に維持するために必要不可欠です。不足すると「疲れを感じやすい」「風邪を引きやすい」といった不調につながる恐れがあります。外食のため、これらを摂ることが難しい場合は、寮に帰ってから野菜ジュース、果物(ミカン、いちご、キウイなど)などで補うように心がけてみてください。

2日目(試合当日)
時間 食事内容・量 活動内容・トレーニング内容
 9:00 起床 ※朝食なし
 10:00 ミーティング
 11:30 昼食 ※朝食兼用 パンケーキ2枚、バター、バナナ1/2本、冷凍ブロッコリー、コーン
 14:00 補食 エナジードリンク1本 アップ開始
 15:00 試合開始
 17:00 補食 プロテイン40g 試合終了
 20:00 夕食 豚骨ラーメン(替え玉1)
 0:00 就寝

【写真左:朝食】なし
【写真中:昼食】※朝食兼用 パンケーキ2枚、バター、バナナ1/2本、冷凍ブロッコリー、コーン
【写真右:夕食】豚骨ラーメン(替え玉1)

★朝食の欠食について

試合や朝のトレーニングの有無にかかわらず、朝食は欠かさず食べることをおすすめします。
ハーパー選手の体重から、一日に必要なエネルギー量を算出したところ4100~4500kcal/日でした。アスリートは多くのエネルギー量や栄養素を必要とするため、食事回数が減ることでエネルギーや栄養素の不足につながるリスクが高くなります。
また、寝ている間にもエネルギーは消費されるため、朝は体のエネルギー源(グリコーゲン)が少なくなっている可能性が高いです。エネルギーが不足した状態だと、体は筋肉を分解してエネルギーを作り出そうとするため、欠食はできるだけしないようにしましょう。
朝食をとるメリットはほかにもあり、体温の上昇、集中力アップなど、パフォーマンスに直結する効果が期待できます。これらを踏まえて、試合当日の朝はあまり食欲がないかもしれませんが、バナナ、おにぎり、サンドウィッチ、エネルギーゼリーなど、どれか1つでも良いので口にするようにしてみてください。

★昼食(パンケーキ2枚、バター、バナナ1/2本、冷凍ブロッコリー、コーン)

彩りが良く、主食(パンケーキ)、副菜(ブロッコリー、コーン)、果物(バナナ)が揃っていることが素晴らしいです。一点気になったのは、たんぱく質を補給するための主菜がないことです。試合開始まで3時間半程度あるため、消化に配慮したバランスの良い食事を摂ることが理想的です。下の改善案のうち、1つでも良いので試してみてほしいと思います。

また試合終了後の補食について、運動後30分以内にたんぱく質を摂取することで、筋肉の修復と成長を促進し回復を早めることができると言われています。ここで重要なのは、激しい運動をした後はエネルギー源となる糖質もあわせて摂取することです。
運動によって筋肉や肝臓に蓄えられたグリコーゲンが消費され、体内のエネルギー源が枯渇したままだと、体は筋肉を分解してエネルギーをつくり出そうとします。糖質はインスリンの分泌を促し、たんぱく質の合成を助ける働きがあるため、プロテインだけでなく、糖質を多く含む補食(おにぎり、あんぱんやジャムパンなど脂質の少ない菓子パン、和菓子、バナナなど)を1~2個程度を摂取することをおすすめします。

 改善案
・ブロッコリーにツナをのせる
・卵料理を添える(レンジで目玉焼きなど簡単なものでOK)
・バナナにヨーグルト、きな粉をかける
・チーズ、魚肉ソーセージ、ハム、豆腐バー、チキンバー等を添える

★夕食(豚骨ラーメン※替え玉1)

試合後の食事は、疲労を次の日に持ち越さないため、バランスの良い食事を摂る事が大切です。具体的には、ごはんやパン、麺類などの糖質を多く含む主食でエネルギーを補給し、肉や魚、大豆製品、卵などたんぱく質を多く含むおかず(主菜)で筋肉を回復し、野菜や海藻、きのこ、イモ類などのビタミン・ミネラルを含む副菜や果物で、運動中に失われた栄養素や抗酸化物質を補います。これを踏まえて、この日の夕食で気になったのは次の2つです。

①替え玉をしているので糖質はとれていますが、たんぱく質源としてチャーシューが2切、野菜はねぎのみであり、たんぱく質、ビタミン、ミネラル類が不足しています。麺類や丼ものは疲れている時でも食べやすく満足感がるというメリットがある一方で、使われる食材が限られていることが多いです。そのため、外食の際は定食メニューやサイドメニューが充実していたりする店を選べるとバランスの良い食事が摂りやすいです。ラーメンの場合は、五目ラーメンやちゃんぽんを選ぶ、卵や野菜をトッピングするなどでもカバーすることができます。

②一般的に豚骨ラーメンは脂質が高い料理であるため、翌日の疲労感に影響を与えていないかが気になりました。体質にもよりますが、脂質の多い食事は消化に時間がかかり、睡眠の質を低下させる恐れがあります。汁を飲まないようにする、塩や醤油などのあっさりしたスープのものを選ぶといった選択もおすすめです。試合後は、達成感や疲労感によって「体に必要なもの」よりも「今食べたいもの」を衝動的に優先してしまいがちですが、試合後の過ごし方もコンディション管理にはきわめて重要です。

 【食事改善ポイントのまとめ】
・緑黄色野菜の摂取量を増やす
・欠食をしない(朝食はできるだけ毎日同じ時間に摂る)
・補食はたんぱく質だけでなく糖質も摂る
・丼もの、麺類の外食は、サイドメニューやトッピングで栄養バランスを整える
・試合後の食事は「体に必要なもの」を優先する