紅谷裕司
KYOTO BB.EXE オーナー/紅谷工務店 代表取締役社長
まるでアメリカ映画のワンシーンに出てきそうな古い倉庫を改修してつくられた「秘密基地」のような外観。ストリート感に溢れ、なんともクールなこの建物は、3×3(3人制バスケットボール)のプロチームであるKYOTO BB.EXE.のホームコートとして、2020年9月にオープンした3×3専用コート「BACKDOOR BASE」だ。
コートをつくったのはKYOTO BB. EXEのオーナーである紅谷裕司氏。野心家にして戦略家でもある彼自身に、このコートをつくったきっかけや動機、さらには今後のビジョンなど、紅谷氏が抱くたくさんの「Wants」について話を伺った。
京都でバスケをしているすべての人のホームコートにしたい
KYOTO BB.EXEは2018年に発足した3×3バスケットボールのプロチーム。京都を本拠地に活動している。しかし、京都市内には3人制バスケに適したコートや体育館が少ないことなどもあり、これまでは大阪で練習をすることも多かったという。オーナーの紅谷裕司氏は「KYOTO BB.EXEと名乗っているのに、京都で練習や試合をする自分たちの拠点がないのはおかしい」と、以前からこの状態に不満を感じ、改善策を模索していた。
また、コロナウイルス感染拡大の防止を目的とした自粛により体育館やスポーツ施設が閉鎖され、京都ハンナリーズとKYOTO BB.EXEに所属する永吉佑也選手や、現在は京都を拠点に活動しているフリーの小川京介選手といったBリーグの選手たちも、京都での練習環境がないことで困っていたこと、さらにふだんからプロ選手に限らず京都の子どもたちや学生のバスケ環境が貧弱なことを気にしていた紅谷オーナーが一念発起。一切の理屈や損得などは考えず、京都のバスケ環境への貢献として、ここ「BACKDOOR BASE」をオープンしたのだった。なお紅谷工務店の社長でもある自身のスキルを活かし、構想から、設計・施工までをすべてオーナー自身で手がけている。
現在は緊急事態宣言が出されている影響で多くの体育館が閉鎖されていることや、中学・高校でのクラブ活動が制限されていることもあって、土日はもちろん平日の利用も多く、亀岡など京都市外からの利用も少なくない。そして利用者からの評判は上々だという。
紅谷「ここへ来てくれたみんなが、まず第一声で『かっこいい!』と言ってくれます。ふつうの体育館とは違って、3×3バスケが持っているストリートの世界観を再現して作っていますから、とくに若い人からは良い評価をいただいています。今後は単にコート・レンタルというだけではなく、イベントスペースとして活用していきたいと思っています。3×3のプロの大会はもちろんですが、小中高校生から大学生、一般の人たちの大会や、プロ選手と対戦したり交流したりできるイベントを開催していくつもりです。また、KYOTO BB.EXEが開催しているスクールではプロが直接指導してくれます。いずれにせよ、地域のバスケットボール人口を増やしたり、バスケットカルチャーを根付かせたり、そもそものバスケファンを増やすところも含めて、バスケットボールの裾野を広げていく活動にも、このBACKDOOR BASEを拠点として使っていけたらと思っています」
さらに紅谷氏は、いずれは京都におけるバスケ文化の浸透だけではなく、大阪や滋賀、奈良といった近県からも来てもらえるような魅力的なコートにしていくことで、関西や西日本全体のバスケットボールの振興にも繋がると目論む。Bリーグにしても3×3プレミアリーグにしても実力や成績を見れば、いずれも東高西低の傾向にある。紅谷オーナーはこの現状に対し、関西のチームのひとつとしてなんとか一矢報い、西日本のバスケットボール全体の底上げのきっかけにしたいという志を抱いているのだった。
京都のバスケ文化の発信基地にしたい
BACKDOOR BASEができたことで、選手たちからも練習環境が確実に良くなったという声が聞こえてくる。なにしろ自分たちのチーム専用のコートなので、日々の練習の際や大会を主催するたびにコートの段取りをする必要がない。練習日程も大会などのイベント日時も、施設側のスケジュールや設備の問題などを考慮せず、自分たちのやりたいことがやりたい時に実現できる。
そしてもっとも大きな効果は、本当の意味での「ホームコート」ができたということによる選手の意識が変わったことだ。多くのチームは自治体や企業が所有する体育館や施設を借りて「ホームコート」としていることが多い。しかしBACKDOOR BASEはKYOTO BB.EXEのためにオーナーである紅谷氏が代表を務める紅谷工務店で施工した、いわば自前の専用コートだ。プロとして当然持つべき自覚、プライド、モチベーション、そうした意識の面で、「自分たちの基地」ができたことは大きなプラスになっていると紅谷氏は語る。
紅谷「昨年はコロナの影響で、リーグ戦が行われず、カップ戦のみでKYOTO BB.EXEも2試合しか出場できませんでした。その状況で私が「ベストオーナー賞」をもらえたのは、やっぱりここを作ったことが評価されたのだと思います。2019年にベストベニュー賞をいただいた時、冗談で『次はベストオーナー賞やな』って言ってたんですけど、まさか本当にもらえるとは思っていませんでした。せっかくならチームの成績や結果で賞がいただければもっと嬉しかったんですけどね」
それでも、BACKDOOR BASEの開設というチャレンジが評価され「ベストオーナー賞」を受賞したことで、チームの信用が確実に高まったのを実感すると紅谷氏は言う。たとえば国内にいる外国人選手から「チームに参加したい」という売り込みやオファーのメールが、このところ急激に増えているという。はるばる外国から来ている選手たちは、国内の選手よりも切実に、より良いプレー環境をシビアに求めているからだと紅谷氏は分析する。もちろん京都市や京都府などの自治体や、スポンサー企業、そしてなによりチームを知るファンからの信頼もより篤いものになった。KYOTO BB.EXEのブランド力は、BACKDOOR BASEという京都のバスケ文化の発信基地ができたことによって、確実に高まっているといっていいだろう。