紅谷裕司
KYOTO BB.EXE オーナー/紅谷工務店 代表取締役社長
3×3(3人制バスケットボール)のプロチームであるKYOTO BB.EXE.のホームコートとして、2020年9月にオープンした「BACKDOOR BASE」。KYOTO BB. EXEオーナーの紅谷裕司氏は、この場所を自分のチームやバスケット界のみならず、京都スポーツ全体を活性化していくための「基地」にしていきたいという。京都のスポーツの現場が抱える課題に対する取り組みや、女子プロスポーツの苦境と解決策など、幅広い視点からBACKDOOR BASEの価値やポテンシャルについて語ってもらった。
バスケットボールだけでなく京都のスポーツ界を盛り上げたい
紅谷「『京都でバスケチームのオーナーをやってます』というと、いまはまだほとんどの人から『京都ハンナリーズですね』という言葉が返ってきます。でも将来的には『ハンナリーズですか?KYOTO BBですか?』と問い直されるくらい、5人制と対等な人気と知名度を持ったチームにしたいんです。そして3×3だけをやりたいという選手がどんどん出てくるようなスポーツになればいいなと思っています。エンターテインメント性もあるし、展開もスピーディーで、あたりも激しい。しかもアーバンスポーツならではのストリート感もあって、むしろ5人制よりもテレビ向きのコンテンツだと私は思っています」
そして3人制バスケの人気が高まることが、京都のバスケットボール全体を盛り上げることにも繋がるのだと紅谷氏は語る。そんな夢への足がかりとして、紅谷氏が掲げている具体的なプランがある。それが「オール京都による、バスケの一本化」だ。京都は洛南や東山を筆頭に全国でも有数の強豪校・名門校として知られている高校が数多くある。しかし大学やプロの世界では、先にも述べたように東高西低の状況が長く続いてきた。そのことに対して忸怩たる思いがあった。京都のバスケ界をひとつにできないか。紅谷氏は早速そのための第一歩を踏み出している。
紅谷「まずはKYOTO BB. EXEと京都ハンナリーズで提携を結びました。いますでに永吉佑也選手は、両方のチームに所属する選手として3人制・5人制両方のリーグで活躍していますが、今後はそれぞれのチームに所属する選手の資質を見極めながら相互に選手交換したり、京都ハンナリーズが3人制チームを作ったり、その逆にKYOTO BB.EXEが5人制チームを作ったりといったこともできたらいいなと思っています」
さらに将来的には高校・大学とも連携を深め、選手の発掘やスカウティングを両チームで協力したり、逆にスクールで発掘した選手を高校や大学へ送り出したりといった育成などにも力を入れていくことも、ひとつの構想として考えているところだという。いずれにせよ、高校、大学、そして京都ハンナリーズとKYOTO BB.EXE、すべてのバスケチームが連携し、京都のバスケットボール界全体がひとつになって地域を盛り上げていくことがなにより大切だとの思いが、紅谷氏の多岐にわたる活動の原動力になっているのだった。
京都の女子プロスポーツや女性アスリートの危機を救いたい
もうひとつ、KYOTO BB.EXEには今年から始まった新たなプロジェクトがある。女子チームの誕生である。現在の所属選手は8名。もともとWリーグでプレーしていた実力者だったが、結婚して子どもが生まれたことでバスケットボール選手としての道を諦めざるを得なくなった選手も含まれている。じつはチーム発足時から女子チームを作る構想はあったが、さまざまな事情で実現できなかった。では、なぜいま改めて女子チームを作ることになったのか。
紅谷「いま京都の女子プロスポーツが危機に瀕していると感じていたのが、いちばんの動機です。昨年、女子サッカーチームのバニーズ京都SCが群馬FCホワイトスターに移管されました。また京都フローラが所属する女子プロ野球リーグも存続が危ぶまれています。このままでは京都から女子のプロカテゴリーがなくなってしまうかもしれない。世の中では男女平等が叫ばれ、女性が活躍する社会へと謳われているのに、スポーツ界は時代と逆行してしまっているんじゃないか。これではダメだと思いました。それなら、うちが女性の活躍できる場を作ろうじゃないかと。いまは女性経営者もどんどん増えて来ているし、逆にスポンサーやサプライヤーも集まるかもしれない。そしてなにより、そういう女性アスリートを応援したいと言ってくれる人がきっとたくさんいるはずだ。そう思ったからです。いまは3×3プレミアリーグに所属している他のチームのオーナーにも、女子チームを作るよう働きかけています」
趣味や余暇としてバスケットボールを楽しんだり、スクールに参加したりする女性は多く、女子のバスケットボール人口そのものは少なくない。しかしプロや社会人選手をはじめ、チームに所属して、本気で続けている人となると途端に少なくなってしまうのだそうだ。やはり公式大会に定期的に出場するとなると地方への遠征も多くなるため、結婚や出産を機に辞めてしまう人が多いからだろう。紅谷氏は今後そうした女性アスリートがバスケットを続けられる環境やサポート体制を整備し、KYOTO BB.EXEを通じて、スポーツで輝く新しい女性像を社会に発信していきたいと話す。
「ただ強いチームを作ることより、いろんな意味でお手本となれるチームでありたい」。そう話す彼のもとには、日本全国のいろんなチームのオーナーや、これからチームを作ろうとしている人たちから「話を聞かせてほしい」というオファーが殺到している。有名チームのオーナーからも見学後に「ここは日本一のコートだ」との言葉をもらった。BACKDOOR BASEの開設と、それを取り巻く活動の多様化は、確実にKYOTO BB.EXEというチームのブランド力と、紅谷オーナーへの注目度を高めたと言っていいだろう。
コロナ禍で苦境に立たされているアスリートへの練習環境の提供、京都バスケ界の一体化、そして京都の女子スポーツの振興。多くの課題への具体的な回答を紅谷氏は用意し、ここBACKDOOR BASEで実践している。“みんなの秘密基地” BACKDOOR BASEは、まさに京都バスケットボール界の今後を左右する戦略立案基地であり、またスクールからトレーニング、大会やイベントまで京都のバスケ事情を知るうえで欠かすことのできない情報発信基地へとなっていくことだろう。