岡田大河
バスケットボールプレーヤー /Zentro Basket Madrid・SHIZUOKA GYMRATS
2019年、アメリカに次ぐバスケ大国スペインへ、わずか15歳で単身乗り込み、マドリッド州の強豪チーム「Zentro Basket Madrid(セントロ・バスケット・マドリード)」でバスケット武者修行を続けている岡田大河(たいが)選手。迎えた最初のシーズンは不運にもコロナ禍と重なり途中で中止。満を辞して臨んだ2年目のシーズンでついに才能が開花。チームを全国大会へと導き、その大会でのMVPにも選ばれるなど頭角を現し、スペインやヨーロッパでの注目も高まってきている。本人が勝負の年と位置付ける3年目のシーズンを前に一時帰国をしているタイミングで、スペインでのプレーに関する手応えや今後の意気込みなどについて話を伺った。(前回のインタビューはこちら)
異国生活が育んだコミュニケーションスキルと自信。
「弱冠17歳。まだあどけなさの残る表情とは裏腹に、将来あるべき自分の姿に照準を据えて語る戦略家のような口ぶりとのギャップがとても印象的な岡田大河選手。「少年」と呼ぶにはおこがましいと感じさせる、アスリート然としたオーラを彼はすでに身にまとっている。所属チームZentro Basket Madrid(セントロ・バスケット・マドリード)で求められる役割や周囲の期待度も日増しに大きくなっているためか、インタビューに答える彼の目つきや言葉の端々から、以前より自信を深めているのが感じとれた。
スペインでの生活もいよいよ3年目を迎えようとしている。現在スペインの学校に通い、スペイン語のほかにも数学や経済学、哲学などぜんぶで9教科を学んでいる。もちろん授業はすべてスペイン語。昨年1年間かけてみっちりスペイン語を修得したこともあり、日常会話レベルならクラスメイトやチームメイトとも問題なくコミュニケーションできるようになった。いまは世界各国から集まった友人たちとテレビでバスケットボールやサッカーの試合を見ながら話すのがとても楽しい時間なのだそうだ。
岡田大河「東京2020大会での日本vsスペインも観ました。個人的にはやはりぼくと同じポイントガードの選手であるリッキー・ルビオがとくに印象的でしたね。2Qの終わりくらいまではすごくおとなしかったのに、2Q後半にルビオひとりの力で20点差まで一気に広げられてしまった。勝負のポイントで立て続けに点を決め切る勝負勘、そこでしっかり仕事ができるのが一流のプレーヤーなんだなとあらためて感じさせられたゲームでした。日本人では、やはり八村塁選手と渡邊雄太選手。さすがNBAプレーヤーだなっていう安定感があり、チームの勝利に欠かせない選手なんだという存在感と技術を見せつけていました。もちろん、いつかは自分もあそこに立ち、彼らのような一流選手と一緒にプレーしたいなと思いながら観ていました」
スペインバスケに学びつつ、自分流を貫く固い意志。
「スペインに来てから2年間のシーズンを経て、気づいたことがある。それは、必ずしもすべてにおいてスペインのほうが優れているわけではないということ。たとえば、スペインはじめ海外の選手は練習量が少なく、オフの日に個人練習をすることもほぼない。また、試合当日は会場入りの時間ギリギリにやってくる選手も少なくないといい、選手としての規律の面においてもあまり褒められたものではないな、と彼は感じていた。もちろんそれだけオンオフうまく切り替えてやっているともいえるのだが、いまの岡田大河選手にとっては量的にも質的にも満足できるものではなかった。「スペインのバスケットに学ぶことは多いが、ここは自分流を貫いたほうがいい」。そう確信した大河選手はチームのコーチやスタッフと自ら交渉し、会場入りの時間を自分だけ早めてその時間を個人練習に充てること、オフの日にも練習場に来て個人練習をすることについての承諾を得る事に成功した。彼のバスケットボールに対する強いモチベーションのみならず、スペイン語で交渉するコミュニケーション能力、そしてコーチからの信頼などの高さを物語る象徴的なエピソードといえるだろう。
また、私生活やコンディショニングの面でも今年から新たな試みを取り入れている。これまで、スペインの一般的な食習慣では夕飯の時間が午後9時から午後11時であることやチーム練習が終わる時刻が夜遅くになるため、夕食を摂る時間が午後10時半ごろになってしまっていた。就寝時間前の食事は胃腸への負担が重く、睡眠の質を下げることが知られているため、サン・クロレラのアスリートフードマイスターである奥村衣梨氏のアドバイスを取り入れ、練習前にまず軽めの夕食を摂り、そのぶん練習後の夕食も少なめに摂るよう変更した。
岡田大河「1日の中で細かく分食すること、さらにサン・クロレラパウダーを毎日摂取することが、コンディションの維持につながっていると感じます。前日の練習で疲れていても翌朝すごく元気に目覚めることができているので。何れにしても、プレー面だけでなくこうした食生活全般のマネジメントやパフォーマンスを高めるための生活習慣に対する意識も、今年になってあらためて高まったことのひとつだと思います」
2年でチームを勝利に導く選手として認められた。
この2年間のシーズンをひと言でまとめるとするならば、ポイントガードとして何をすべきかを徹底的に頭と身体に叩き込んだ2年間だった、といえるだろう。スペインはもともとスキルの高いガードの選手が多く排出される土地柄で、どの地区にも、どのカテゴリにも、たいてい優秀なガードの選手が必ずいる。そのぶん競争も激しく、コーチから要求されるプレーレベルもかなり高い。ましてや体格のいい欧州の選手と競い合うことになるうえ、今年のシーズンはカテゴリがひとつ上がったこともあり、かなりハードなシーズンだったという。それでも自身の活躍でチームをマドリード州の代表に導き、進んだ全国大会では初日のMVPにも選出された。シーズンの終盤には監督から「最後はお前に任せる」との言葉をかけられ、全幅の信頼を勝ち得るところまで来た。
岡田大河「全国大会に出場できたことでいろんな州の強豪チームと対戦し、代表クラスの選手やユーロ圏で活躍している各国のエース級の選手、とくにガードの選手のプレーをじかに見ることができたこと、また実際に対戦してフィジカルにそのスキルを感じ取れたことがすごく大きな経験になったと思っています。とくに、ぼく自身の最優先課題として捉えていた『どうやってガードがチームを勝たせているのか?』ということ。州予選でも本大会でも、いくつかの試合でぼく自身のプレーでチームを勝たせることができたと思います。その結果も踏まえて、今大会での経験を通じて自分なりに導き出した答えとしては『大事な局面で点を取ってくれるガードがいるチームは強い』というもの。それを実感できたことが最大の収穫でした」
こうして彼は2年目のシーズンと全国大会での経験から、「チームを勝たせ続ける選手になる」という課題をあらためて自身のテーマとして掲げた。と同時に、そのテーマ実現のためのヒントでもあり、フィジカル面で不利な自分がポイントガードとしてヨーロッパリーグで生き残っていくための、あるひとつの手応えとなるものを掴み取っていた。やはり、誰よりバスケIQの高い選手にならなければならない。それは3シーズン目を迎えるうえでクリアすべきミッションでもあり、スペインへのバスケ留学を決めたひとつのきっかけとなった“原点”への回帰でもあった。