岡田大河
バスケットボール/ZENTRO BASKET MADRID
15歳で単身スペインに渡り、マドリードの名門チーム「Zentro Basket Madrid(セントロ・バスケット・マドリード)」のジュニアカテゴリ(カンテラ)で活躍したのち、わずか17歳でEBA 4部リーグでのプロデビューを果たした岡田大河選手。
スペインでのレギュラーシーズンだけでなく、「Basketball Without Borders Asia 2022」での活躍や「Basketball Without Borders Global 2023」への招待、さらには日本代表選出など活躍のフィールドが広がり、今後のキャリアへの期待が一気に高まった1年でもあった。後編では、彼がバスケット人生で初めて経験したさまざまなチャレンジについて語ってもらった。
世界中の同世代トップ選手とプレーして気づいた自身の現在地。
所属するZentro Basket Madrid(セントロ・バスケット・マドリード)で、コーチからチームを勝たせるプレーを求められるなど、着実に異国での地歩をかためてきた岡田大河選手。2022年から2023年にかけての彼の活躍は、もはやスペインリーグだけにとどまらなかった。
まずは2022年の8月にオーストラリアのNBAアカデミーで開催されたNBAとFIBA共催による若手育成キャンプ「Basketball Without Borders Asia 2022」に、岡田大河選手も招待された。バスケットボールの世界的な発展とコミュニティーへの支援を目的としてアジア・太平洋地域の15の国と地域から高校生世代の男女アスリート60人が集まったこのキャンプは4日間の日程でおこなわれ、日本人からは彼を含めて8名の高校生世代の選手が参加している。初日はスキルトレーニングとテストゲームで選手の実力を見極めたうえでチーム分けを行い、残り3日間でリーグ戦が行われた。彼のチームは準決勝で惜しくも敗れたが、最終的に彼はこのキャンプにおけるオールスター選手に選出された。
また、ここでの結果が評価されたこともあってか、その後2023年2月におこなわれた「Basketball Without Borders Global 2023」のキャンプにも日本人唯一のプレーヤーとして招待された。これは過去に八村塁選手も参加した重要なキャンプである。しかし、当の本人はBWBグローバルに呼ばれることがどういうことなのか、よくわかってなかったという。チームのスタッフに話すと「すごいことだよ」と教えられ、あまり実感もなくキャンプに行ったのだそうだ。これまで多くの「日本人初」を飄々とした風貌でじつにあっさりと達成してきた彼らしいエピソードだ。
岡田大河「BWBグローバルに参加していた選手のほとんどが海外で活躍している選手や各国の代表選手で、なかにはNBAアカデミーから来ている選手やNBAのドラフト候補の選手もいました。すごくいい環境だったなと思いますし、いよいよ自分もこういう場所に呼ばれるところまで来たんだなという実感を持ちました」
そのいっぽうで彼は、そうした環境にあっても、自分の実力が彼らに決して劣るものではないという手応えのようなものを感じたていたとも話す。
岡田大河「スペインリーグで戦ったことのある選手もいましたし、ふだんプロとしてスペインのリーグで戦っている選手たちと比較してもレベルとしては変わらないと感じたので、そこまで臆することはなく臨むことができました。当然、自信にもなりましたね。ただ、やはりその中でトップにいるような選手は頭ひとつ抜けていたのも事実です。それはもう肌で感じました。でも上をめざすには、あそこにいかなければいけないのだという決意をあらためて持つことができた。そういうキャンプでもありました」
秀でた才能を持った選手が集まった環境であっても、そのなかで目立った活躍ができる選手というのは、やはり「決め切る力」「一対一の能力」を持っていた。そこにはまだ大きな差を感じたという岡田大河選手。得点能力、パスのスキル、バスケIQなど自分にはまだまだやるべきことがたくさんある。そのことを体感したキャンプだった。そうして多くの刺激を受けたことももちろんだが、世界各国から集まった多くの将来有望な選手や各国の代表選手と直接知り合えたことも、今後の彼にとってきっと大きな財産になることだろう。
海外で戦っているからこそ感じた、日の丸を背負うことの意味。
そして2023年は岡田大河選手のバスケット人生において、ひとつのエポックメイキングとなるような大きなステップを迎えた。6月からハンガリーで開催されるFIBA U19バスケットボールワールドカップ2023において日本代表に初招集されたのだ。しかもアンダーカテゴリーの代表チームのヘッドコーチであるアレハンドロ・マルチネス氏はスペイン人。コミュニケーションやプレースタイルの理解などについてもとくに障壁はなかった。また代表合宿に参加した岡田大河選手は、初めて一緒にプレーする同世代の日本人選手たちとも積極的にコミュニケーションを交わし、海外での経験を活かしたアドバイスや情報交換に努めた。代表にかける思いは誰にも負けないという自負もあったという。
岡田大河「スペインのチームで一緒にプレーしている選手の中にはそれぞれの国で代表となっている選手も多くいましたし、いずれは自分もという気持ちはもちろんあったので、やはり日本代表に召集されるということに対しては特別な思いがありました。それにアンダーカテゴリーとはいえ、日本代表となるとふだんそこまでバスケットボールに注目していない人にも、自分の名前を知ってもらい、プレー見てもらいチャンスでもあるので、今後の自分のためにもすごく重要な機会になると感じています。なにより、これまでずっと応援してくれた人たちに、いい結果で恩返しできたらという思いもある。喜びとか期待とか感謝とか、いろんな思いを背負いながら世界を相手に戦えることを、自分自身いまからすごく楽しみにしています」
NBAグローバルアカデミーに所属するジェイコブス晶選手や川島悠翔選手なども選ばれているが、彼のようにこの世代で海外のプロリーグを経験している選手はいない。国際大会であるワールドカップにおいてそうした経験を同世代の代表選手に伝えていくことも、岡田大河選手に課せられた役割だといっていいだろう。
もちろん海外の選手を相手に日本人だけで戦うことは、フィジカルの差はもちろん経験値においても簡単なことではないことは誰よりも知っている。ましてや勝ち進むとなるとさらに困難を極めることだろう。前回のワールドカップでも日本代表はいい結果を出せていないことも知っていた。しかしだからこそ、今回の代表チームが1試合でも多く勝ち、これまでなし得なかった結果を出したい。そして、その中心を自分が担い、歴代最高順位である10位を超えたいと意気込むのだった。
来シーズンは、大人になった岡田大河のプレーを見てほしい。
6月からのワールドカップを終えると、2023-2024のシーズンが始まる。現段階ではどのチームでプレーするかなど詳細はまだ決まっていないという。しかし「チームを勝たせるプレーをする」という彼自身が掲げる目標は、所属するチームがどこであれ、BWBや日本代表であっても、変わることなく追い求めることとなる普遍的なテーマである。日本で培ってきたスピードと、スペインのジュニアカテゴリで磨き上げたパス技術とバスケIQ。そしてプロとなって挑んできた個の能力で決め切る胆力。積み上げてきたこれらのさまざまなスキルが、来シーズン、大きく花開く予感に満ちている。
そんな彼にあえて、彼よりさらに若い世代の選手にアドバイスはあるか?と尋ねてみた。
岡田大河「小さい頃はいろんな人の意見を聞いたほうがいいと思います。もちろん自分の意見を持つことも大事なんですけど、まずは視野を広げることが先決。ひとりの指導者に深く関わってもらうのもいいけど、いろんなタイプの人とコミュニケーションし、いろんなタイプのプレーを見ることで、パスやシュートといったプレーの選択肢はもちろんのこと、バスケットというスポーツそのものへの視野が広がるからです。日本だと『人の意見を聞く』というとつい、その人の言うとおりにしないといけないと思いがちですけど、人の意見を聞いてそれを自分の引き出しにすればいい。最終的なチョイスは自分でやればいいわけですから」
そう語る岡田大河選手が幼かった頃から、父である卓也氏から口すっぱく言われてきた言葉がある。「論より証拠」。「口で言うのは誰でもできる。それより実際に行動して結果を出しなさい」ということだった。その言葉はいつしか彼の座右の名になっていった。
そういえば、ここ数年の彼の過去のインタビューを振り返ると、前年の取材で自ら語った目標を、翌年のインタビュー時には確実に達成してきていることがわかる。つまり、論もあり、それを言葉にしたうえで実行に移し、それらを結果で証明してきたのだ。まさに有言実行にして、論より証拠。来年5月にいよいよハタチとなり、キャリアにおいて大きな節目を迎える彼が、このインタビューで語った夢や目標をどのくらい、どのようなかたちで実現しているか。いまから“大人”になった岡田大河選手とともに、その答え合わせをするのが楽しみで仕方がない。