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Vol.73
教えることを学びあう。
〜スポーツ指導者と管理栄養士。ふたりのコーチ同士によるコーチング・ダイアローグ〜

大北照彦(アイスホッケーコーチ/Okita Hockey School)

教えることを学びあう。 前編
2024/07/09

アイスホッケー元U20日本代表監督などを歴任し、Okita Hokey Schoolの代表兼ヘッドコーチとしても活躍する大北照彦さんと、アスリートフードマイスターであり管理栄養士として、サン・クロレラでアスリートへの栄養セミナーなどをおこなってきた板津。プロスポーツと栄養学。それぞれの持ち場で互いに指導者という立場でアスリートの身体づくりに関わってきたふたりが語り合うコーチ同士によるコーチングダイアローグ。
前編ではまず自身4歳の子どもの母親でもある板津から大北さんへ、子どもたちがスポーツや習い事を続けるうえで必要なこと、親としての心構え、子供とのコミュニケーション方法などについてお話を伺った。

コーチングにもっとも大事なのは、指導ではなく対話する姿勢を見せること。

板津「アイスホッケーを始めるタイミングとしてだいたい何歳くらいから始める子が多いんですか?」

大北「小学2年生ですから、8歳くらいですね」

板津「最初はやはり保護者の方がアイスホッケーが好きだったとか経験者だったとかそういうパターンが多いのでしょうか?」

大北「そうですね。でも最近は小学校で『アイスホッケーを始めませんか?』という勧誘チラシを配布している学校もあり、そこから興味持ってきてくれる子も多いですね」

板津「じつはうちにも4歳の子どもがいるのですが、初めてのことが苦手な子なんですよね。最近になって体操教室とスイミングスクールに通い始めたんですけど。本人はやりたくないようでしぶしぶ行っているようなところもあるのですが、親としてはやっぱり体力をつけたり、さまざまな経験をして視野を広げてほしいと思っていて。大北先生のアイスホッケースクールでも、そうしたケースはありますか?アドバイスをいただければうれしいです」

大北「最初は遊びの延長から入って、まずはアイスホッケーの楽しさを伝えるようにしています。とにかくその競技が好きというのが根底にないと続かないと思うので。それでその遊んでいる様子を映像に撮って、子どもたちと一緒にそのときの様子をじっくり観察してみるんです。そのうえで『もっと楽しくするためには何が必要だろうか?』と子どもたち自身に考えてもらうようにしています。そうすると『もっとシュートを打てるようになったらいいなあ』とか、『もっとパックをハンドリングできるようになりたい』といった感想が返ってきます。じゃあそれについてやってみよう、というふうに促して、自分たちで楽しくする工夫をしてもらうようにしています」

板津「コーチから生徒に一方通行で教えるのではないということですね」

大北「はい、そうですね。ぼくもOHSを始めたころは、いかに海外で活躍するか?とか、プロになるにはどうすればいいかといったことばかりを言いすぎていたんです。それをみていた妻に「みんながプロをめざさないといけないの?みんなが上手くならなくちゃいけないの?」というふうに指摘されてハッとしたんです。そうじゃない。すべての子どもたちにホッケーの楽しさを伝えるというのがスタートラインだったはず。その子なりの夢や目標があっていいし、僕らはそこからスタートしないといけない。その一件があって、ぼくの視野も広がったし変われました」

子どもたちの目標や競技レベルに合わせて、コミュケーションを変える柔軟性も必要。

板津以前のインタビュー記事を拝見して「目標はオリジナルでいい」というお話が印象に残っているのですが、いまの話にも通じるところがあると思いました。とはいえ現場ではプロになりたい子とアイスホッケーを友だちと楽しみたい子、各々のスキルや熱量が違うと指導の上でご苦労もあるのではないでしょうか?」

大北「もちろん温度差は正直いってあります。OHSではアイスホッケーのプログラム以外にもオフアイスでのコミュニケーションやメンタル面、栄養面での講義などもやりますが、その際の聞く姿勢がその子の目指している夢や目標のレベルによってぜんぜん違います。子どもだけでなく保護者の方の目線も違っていますから」

板津「プロをめざしていたり高い目標を持った子から見ると、そうでない子が試合で負けても悔しがらず笑っているのを見たりすると『負けてヘラヘラするな!』とイライラしたりして、チーム内での衝突したりすることもあるのかと思いますが、そういうときはどうされていますか?」

大北「東京でクラブチームを率いていたとき、まさにそういったことがありました。アイスホッケーでの高校や大学への進学をめざしている子と、なんとなく始めた子ではどうしてもその差は出ます。そこで年に2回、保護者と子どもたちを集めてクラブ全体でのミーティングをしてたり、中学生になると個人面談も実施して、ひとりひとりと密接にコミュニケーションをとって、もしストレスになっていることがあれば教えてもらうようこちらからもリクエストしていました」

板津「やっぱりコミュニケーションがすべてということなんですね。ミーティングには保護者の方にも参加していただくんですね」

大北「はい。アイスホッケーはまだまだマイナースポーツで、すぐ近所の小学校で練習できる環境にありません。リンクへ行くだけで1時間から2時間がかかる。そこから1時間か2時間の練習をしてまた家に帰るのに1時間から2時間。それだけで5〜6時間かかるわけです。そうすると試合や練習はもちろん送迎のあいだもずっと保護者と一緒にいて、話題もアイスホッケーのことになります。当然「今日は良かった」「あそこがダメだった」と保護者から子どもたちへの意見が出てきます。もちろん皆さん熱心だからこそのアドバイスであり悪意はありません。でも保護者の方々も仕事でストレスがあったりもするでしょうから心のコンディションがいい時と悪い時がありますよね」

板津「ちょっとドキっとしますね。自分もそうなってないか心配になってきました」

大北「だから移動の車の中でのコミュニケーションの際に、保護者はどういうことを言ってあげたほうがいいとか、そういうこともビデオを使いレクチャーしていました。車のなかで今日はダメだったとか、なんでこうやらなかったんだとか、もしネガティブな言葉ばかりをかけているとしたら子どもはどんな気持ちになるでしょうか?前向きになれるだろうか?それともネガテイブになるだろうか?それが1週間、1ヶ月、1年続いたとしたら、子どもたちはその競技を続けたいと思うだろうか?と考えさせられる内容です。それを見ていただき、じゃあ大人はどんな言葉をかけてあげればいいのか?ということを一緒に考えていただける内容になっています。」

板津「やっぱり親はどうしても思いが強すぎて、つい言いすぎたり、正解に導こうとしすぎて言葉がキツくなったり、イライラしてしまいがちですもんね」

大北「そうですね。じつは僕自身それで失敗した経験があるんです。いまから14年前、ぼくが34歳だった頃のことですが、大学のチームのコーチに就任してから4年で優勝に導くなど実績を上げていました。その後ぼく自身が日本代表のスタッフに入ったこともあり、ぼくのなかにコーチングの知識がさらに広がっていました。そうするとその新しく学んだ最新のトレーニング知識や戦術、スキルなんかをもっと教えたくなって、選手たちにどんどん伝えていったんです。しかし2,3年もするとチームが急降下しはじめて、2010年には伝統あるチームを二部に降格させるという失態を犯してしまったんです。それをきっかけにチームを教えるのとスキルコーチとは別物だということを理解し、ティーチングのしすぎが選手の自立を奪い、指示待ちの集団へ変わり、チーム力が成長しないことを学びました。とにかくいまのままじゃ指導者としてダメだと思い、大学チームのコーチを辞めて、ナショナルコーチアカデミーでいろんな競技のコーチの皆さんと出会って8週間学びました。そうした一連の出来事が指導者としてのぼくの世界観を広げてくれたと思っています」

板津「子どもの自発的なところを伸ばしていく必要があるということですね」

大北「はい。アイスホッケーはとくに展開が早いスポーツです。だからその状況状況で選手自身が判断しないといけないことが多いんです。大枠としてチームの方針や作戦はもちろんあります。でもその大枠の枠組みから外れてもいいんだよとアナウンスをするよう心がけています。その結果、たとえ失敗してもチャレンジしての失敗なのか何も考えずに無謀にやった結果なのか?失敗でもいいチャレンジだったよねというふうに言えたらOK。とにかく子どもたち自身が考えて、判断して、行動することが大切だと思っています」

OHSはアイスホッケーを教わるだけではなく、自分で考え、どう行動するかを学ぶ場所。

板津「そういう自分の頭で考えられる子どもに育てるうえで、家庭でできることはありますか?」

大北「大人が自分たちの思い描いている正解に誘導しないこと。そのためには待たなければいけないんですね。子どもたちが自分の考えを伝えてくるまでじっと待つこと。時間はかかるし、エネルギーも使います。でもできるだけ子どもたちの目線で待ってあげて、それぞれがなにを考え、どんなことに興味を持っているのかを見るようにしています」

板津「たしかに子どもって道を歩いていても、落ちているものなんかにすぐ反応して、遊び始めちゃいますよね。大人はもうそんなのいいから早くいこうって言っちゃいがちですけど(笑)」

大北「はい。興味という『根』を育ててあげないと本当の人生の『花』は咲かないと思っています。ぼくらがホッケー以外の面でのコミュニケーションを強化する目的で「オフアイスプログラム」をやるのも、やはりいろんな根を育ててあげたいからです。小学校卒業とともにアイスホッケーから離れる子もいますし、仮にプロまでいったとしてもスポーツ選手のキャリアはとても短いです。けれど小さいころからアイスホッケーばっかりやっていると、次になにをすればいいんだろうという不安にぶつかる。ほかのスポーツでもいいし、ピアノや水泳でもなんでもいい。そうした興味の「根」が大人になったときに力になっていく。それは必ずしもホッケーである必要はありません。できるだけたくさんの根を伸ばしてあげるようにしておけば、いずれどこかのタイミングで、いずれかの花を咲かせることができると思いますので」

板津「それでも、なかには途中で辞めたいという子どもたちも出てくると思います。そういうとき、親は子どもにどう接したらいいのでしょうか?」

大北「以前、いま所属しているチームでは試合に出られないので、レギュラーになれる別のチームに移籍したいという子がいました。当時その子は5年生だったんですけど、アイスホッケーを始めたのは4年生からだから経験が浅く、伸びしろはまだまだあったんですよ。だからその子には『試合に出られる格下のチームに行った自分、いまは出られないけど練習を繰り返して上達して、自分の力で強いチームのレギュラーを掴み取った自分、どっちの自分になりたい?』って尋ねてみました。するとその子は『もっと練習してレギュラーを取る。それが一番ハッピーなことだ』といってくれました。それならもう少しいまのチームでがんばってみようと話しました」

板津「なるほど。お話をされてその子も納得してチームに残る選択をされたんですね。その後、その子はどうなったんですか?」

大北「その子が6年生になったときレギュラーポジションを取っています。それどころか選抜チームにも選ばれました。中学入学のタイミングでチームを変えたんですが、あと2年したら海外に挑戦するというところまで成長しました」

板津「よかったですね」

大北「はい。だからその子の場合はあのときチームを変えなくてよかった。でも必ずしも辞めるという選択がダメというわけでもないんです。ただ、いずれにしても選択するのは自分なんだよ、ということは本人にも保護者の方にも伝えます」

板津「私も含めて、つい親としては続けてほしい、がんばって最後までやり抜いてほしいという方向で説得しようとしがちですね」

大北「それも決して悪いことではありません。ただ、その際に『なぜお母さんは辞めてほしくないのか?』その理由や思いをちゃんと伝えてあげてほしいんです。なるべく子ども扱いせずに対等に一緒に考えて、話しあうこと。そのうえで最後はこども自身に選択させる。それが大事かなと思いますね。スポーツに限らずどんなことでも成功するためには、やり切る力、やり続ける力って大事だから、辞めてほしくないという保護者の気持ちも間違ってないし、ぼくもそうあってほしい。だからその思いを伝えてあげてほしいんです」

板津「大北さんからみて、その見極めはどうされていますか?」

大北「子どもの性格や競技のレベル、それからその子がめざしている目標によっても違いますが、いずれにしてもコーチも保護者も、近道を教えてはいけないと思っています。たとえ時間がかかったとしても子どもたちが自分で失敗して、失敗から学ぶ経験をさせてあげることが長期的には大事だと思うからです。逃げる選択はしないほうがいいよ、と。そのことは伝えるようにしています」