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Vol.75
モナコに舞い降りた東洋の貴公子。
スペイン経由でやってきた日本人ガードが、フランスリーグの強豪ASモナコU21をクラブ史上初の準優勝へと導いた。

プロバスケットボールプレイヤー/ASモナコ U21
岡田大河

モナコに舞い降りた東洋の貴公子。後編
2024/09/26

2019年、わずか15歳で単身スペインに渡り、マドリッドのZentro Madridで4年間プレーした岡田大河選手。昨年フランスリーグの名門チームASモナコU21に移籍し、ファーストシーズンでいきなりチームをクラブ史上初の2位へと押し上げる立役者としての活躍を見せた。コーチやチームからの信頼も厚く、精神面での成長も著しい。また、今年の5月でハタチになり、身長もさらに伸び、身体の厚みも逞しくなって、名実ともに「大人仕様」となった岡田大河選手。今シーズンはいよいよトップチーム昇格に向けた、さらなるチャレンジに取り組むこととなる。
後編では世界中からセレブや富裕層が集まるモナコでの生活についてや、日本代表にかける情熱、そして最後に日本でバスケットボールを愛している子どもたちへのメッセージなど、彼の内面やフィロソフィー、そして未来への思いを伺った。

モナコでの解放的な生活環境と、充実した練習環境。

モナコ公国は地中海沿岸の穏やかな気候の国で、カジノや高級ホテル、高級レストランが立ち並び、ヨットハーバーやF1レースなどでも知られている。面積は約2㎢。東京ドームおよそ45個分で皇居よりも小さい。彼が住んでいるのはフランス国境にほど近い地域。治安の良いモナコだからか、国境管理はゆるく、最寄りのスーパーのあるフランスの街まで、自転車で国境を越えて通っているのだそうだ。彼がこの街に来ていちばん驚いたのは、街を走るクルマがレースで見るようなスーパーカーや日本では見たこともないような高級車ばかりだということ。彼の移動手段はもっぱら自転車ということもあり、「ぶつけると大変なことになる」と苦笑する。
そんな街だから当然のようにコンビニの類はなく、食事のための買い物は高級大型スーパーと先述のフランス国内にある小型スーパーで賄っている。スペインでは1日5食の文化だったが、モナコでは日本と同じ3食。昼はチームから提供されるので、朝と夜は先のスーパーで食材を調達し、毎日自炊しているのだそうだ。

岡田大河「まず物価に驚きますよね。モナコ自体、富裕層の街なので物価が高いですし、加えていまユーロがめちゃくちゃ高いのでびっくりします。チームからスーパーで使える専用のカードを用意してもらっているので、食費に関しては困っていませんが、そうじゃなかったら大変だと思います」

20歳になり、現在は学校に通う必要もないので、24時間365日、バスケットボールに集中できる環境にあるのがうれしいと語る岡田大河選手。ASモナコでは基本的に平日の練習は朝と夕方の二部制になっており、朝早くから朝練を行い、昼休憩を挟んで夕方に再度練習が行われる。スペイン時代には朝早く練習場に来て練習したいと申し出てもコーチは来てくれないことが多かったが、モナコでは基本的に練習開始の45分前にはコーチが来てくれて体育館を開けてくれるのだそうだ。

岡田大河「だから自分は必ずいちばん早く練習場に来て準備するようにしているんですけど、たまにコーチにリバウンドとか一対一とかに付き合ってもらっています。そうやって個人練習をしてからチーム練習に入ることができるのがありがたいですね。あとアシスタントコーチがふたりいるのですが、そのふたりがシューティングだけとか、試合を想定したドリブル練習とか、そういう個人スキルの練習を見てくれるスキル系コーチだったので、たとえば『この時間にここでこの練習をしたい』と言えばスケジュールを合わせて見てくれたり、いろいろ自由が効くのもすごくいい練習環境だと思います」

選ばれて初めて実感した、日本代表を背負う責任の重み。

2023年はU19日本代表にも選出され、FIBAU19 ワールドカップ 2023 などの国際大会に出場。日の丸を背負ってプレーする経験をした。自分が日本代表選手として選ばれ、特別な舞台での特別な試合に出るチャンスが与えられたことはもちろん栄誉であり、うれしいことだと語る。そのいっぽうで、そのうれしさよりも、選ばれし者としてふさわしいプレーをしなければならないという責任感のほうが強かったと振り返る。もちろんチームの司令塔として、これまでもふだんのゲームでも責任を持ってプレーしていることに変わりはなかった。しかし、日本代表に選ばれたからには、選出されなかった選手たちのぶんも、それから日本で応援してくれている人たちのためにも、いつも以上に質の高いプレーを自身が求めていかなければならない。そうした責任感こそが国を代表して戦うことの意味だと痛感し、その重みを彼は試合を通じて初めて知ったという。
そして2028年はいよいよバスケットボールの本場であるアメリカで2028ロサンゼルス大会が開催される。当然、彼の視野にもその大会は入っているはずだ。

岡田大河「やっぱりバスケの本場での大会ですから、日本代表としてその地でその大会でプレーしたいという思いはあります。選ばれた人しか出られないステージですし、プロスポーツのトップにいて、つねに自分と向き合ってきた人しか辿り着けない場所だと思うので、そういうところにもし自分が出られるのであればとても光栄なことだと思います。ただ、いまはまず自分が海外のトップリーグの、それもプロのトップチームというステージでしっかり結果を出すこと。そうすれば自ずとそこへつながっていくのかなと思っています」

熱い想いと、冷静な現状分析。これこそがまさに岡田大河選手の真骨頂である、と感じさせる彼らしいアンサーだった。実際に彼は15歳でスペインに渡ってから、歳を重ねるごとに一歩ずつ着実に上のステージへと進出し、そのたびに自身が成長することでチームを上昇させてきた。そのたしかな実績とそれへの自負が、まるでベテラン選手のような、大人びた客観的な視野の広さを彼にもたらしている要因ではないだろうか。この調子なら、来季終了後のトップチーム契約と、4年後のロサンゼルス2028大会での日本代表選出も「夢」ではなく、実現可能性の高い「目標」だと考えていいだろう。

将来を担う子どもたちと、未来の自分へのメッセージ。

今シーズンの結果をふまえて、少なくとも同世代のカテゴリにおいては、ヨーロッパのどの国のリーグでも彼のプレーはじゅうぶん通用することがわかった。当然、次なる目標としては、その次のシーズンからのトップチーム入りを果たすことに照準を定めることとなるだろう。来季はそれを勝ち取るためにアピールするシーズンとなってくる。

岡田大河「昨シーズンまでは得点を取れるときと取れないときとでプレーの質の差が大きかったことが課題ですね。シーズン後半になるにつれてコンスタントにふた桁得点を取れるようになってきてはいたので、来季はシーズン最初からそれを継続して、1試合1試合でもっとインパクトを残すこと、チームの勝利に貢献することを心がけていきたいと思っています。もちろんフィジカルはスペインのころからの課題ではあったのですが、フランスでもスペイン時代と同様に少しずつアジャストできて十分やれているという感覚はある。スキルも、スピードも、フィジカルも、すべて少しずつではありますが、それでも着実に自分ができることは増えていっているのを実感しています。だから来季への不安はまったくありません。チャンスさえもらえれば、確実に自分はやれると思っているので」

そう言い切った彼の言葉からは、日本、スペイン、そしてフランスとさまざまな国で、さまざまなスタイルのバスケットボールを経験してきたことで育まれた自信が感じられた。バスケットスタイルだけでなく、異なる文化圏の異なる言語圏の人たちとコミュニケーションをしながら、「外国人」として短時間で結果を求められる立場だった彼は、スキルやスピードといった技術面だけでなく、そうした環境でチームを勝たせる司令塔であるための精神性が養われていった。その結果、彼は自然と「トップ・オブ・トップ」になるために必要なメンタルの強さを獲得していったのではないだろうか。
最後に将来のプロをめざす子どもたちへのメッセージをお願いすると、技術的なアドバイスではなく、やはりそうしたメンタル面への言及が中心となっていた。

岡田大河「ふだんからぼくは『自分と向き合う』という言いかたをしていますが、チームのミスはすべて自分のミスだと思って切り替えることがなにより大事だと思います。バスケットボールというのは他の競技に比べて、切り替えがとても速いスポーツなので、うまくいかなかったときにクヨクヨ悩んだり、チームメートのせいにしたりしているヒマはありません。もちろんイライラすることはぼくにだってあります。でもだからこそふだんからチームメートと積極的にコミュニケーションをとって、信頼関係を築いておく。お互いへの信頼があれば、多少強めに言い合っても大丈夫ですから。けっきょくみんな勝ちたいし、強くなるために戦っている。そこのすり合わせさえできれば、厳しい練習や激しいゲームを楽しめるようになると思います」

これが、2024年夏の岡田大河選手が立っている地平だ。あどけない顔で、厳しい海外挑戦をしている少年、というイメージは、もはやそこにはなかった。年齢的にも大人になった彼の意識は、すでにプロのトップチームとともにある。そして4年後にはロサンゼルス2028大会で彼の活躍が見られることだろう。そしてその先には、NBAが待っている。9月からの新シーズンは、起承転結でいえば「承」の終わり、といったところだろうか。「岡田大河という物語」の、その後のより大きな展開に向けた最新章が、いまから待ち遠しい。