【アスリートフードマイスターに聞く!Vol.21 トライアスロン編 平泉真心 選手】
今回、奥村(生産開発部研究開発グループ所属)がチェックするのは、アジアトライアスロンジュニア/U23選手権ジュニア女子優勝、日本学生トライアスロン選手権女子優勝などの実績をもち、まさに今伸び盛りのアスリートである流通経済大学トライアスロン部 平泉真心選手(18)。スイム、バイク、ランの3種目を連続で行う過酷な競技において、強靭なフィジカルを支えるための食事管理は欠かせない。より高いパフォーマンスを発揮するために、「エネルギーの摂り方」と「野菜の摂取量」などについてアドバイスを送った。
1日の食事記録をチェック
はじめに、回答いただいたアンケートを整理します。平泉選手は身長160㌢、体重54㌔(空腹時)。トレーニング頻度は週6~7日、1日の野菜摂取量は小鉢1杯程度です。トレーニング内容に合わせて食事メニューや時間を考えられている一方で、生活習慣の改善が難しい原因に「時間がないこと」、「知識がないこと」を挙げています。これらのポイントも踏まえて、今回チェックしていきたいと思います。なお1日の食事・活動記録は以下の通りになっています。
パフォーマンスを維持するエネルギー
まずは体を動かすために必要なエネルギーについて解説していきます。トライアスロンはスイム、バイク、ランを連続で行う競技です。平泉選手は1日で全種目のトレーニングを実施していることから、消費エネルギー量は多くなります。消費したエネルギー分の食事量を摂ることができれば良いですが、食べる量には限界があるため、その日の体調や体重をチェックしながら食事量を調整することが大切です。
回答いただいたアンケートの食事内容では、1日の活動量に対して600kcalほど足りていませんでした。トレーニング翌日に肉体的疲労感を感じているのであれば、食事量を少し増やしてみても良いかもしれません。
そして、食事量を増やす方法として補食があります。平泉選手のトレーニング内容では、スイム7km、バイク1時間、ラン10kmと多くのエネルギーを消費しています。トレーニング効果を高め、疲労回復などのコンディションを維持するためにも補食の活用が大切です。
「補食」はトレーニング効果を高め、コンディション維持に繋がる
回答いただいたアンケートによると、習慣的な練習前の朝食は食事記録にもあったバナナ、柿以外にも、みかんやおにぎり、もち、食パンでした。練習前の朝食では、基本的にエネルギー源となる糖質メインの穀類や、糖質とビタミン、ミネラルを補うことができる果物を最低限食べています。
練習前の食事では練習中にお腹の調子が悪くならずに、かつエネルギー切れが起きないように最低限のエネルギー源となる糖質を多く含む食品を選んでいますが、昼食までに追加で何も食べていない点が気になります。
なぜなら、午前中のスイム7km、バイク1時間のトレーニングで多くのエネルギーを使っているので、エネルギーの摂取量が少ないと練習中に必要なエネルギーが不足してしまい、疲れを感じやすくなって、本来のパフォーマンスを発揮しづらくなる可能性があります。また、エネルギーを多く使ったトレーニングの後は疲れているので、エネルギーを補給して疲労を回復することが大事です。
1時間以上のトレーニングを行う場合、エネルギー源となる糖質を適宜摂取することが望ましいですが、運動後は食欲が出ず固形物を食べることが難しいときがあるかもしれません。
そのようなケースでは、液体で比較的消化が早いスポーツドリンクやゼリー飲料などを練習の合間に飲むことをお勧めします。また、固形物が食べられる場合は手軽に糖質が摂れるせんべいやまんじゅう、カステラなどの脂質が少なく胃腸に負担をかけない和菓子などがお勧めです。
練習後は疲れた体を早く回復させるためにも、練習後1時間以内に少しでもエネルギーを補給することがポイントです。なお、紹介したせんべいやまんじゅう、カステラなどの脂質が少ない和菓子も良いですが、練習では筋肉も使っているので、筋肉の修復にたんぱく質を含む食品を一緒に摂ることが望ましいです。
例えば、鮭やそぼろ肉が入ったおにぎりや肉まんは、糖質とたんぱく質を一緒に摂ることができます。さらに、ヨーグルトやチーズなどの乳製品もたんぱく質を含むので、プラスで取り入れても良いと思います。
平泉選手は体重測定も毎日行っていて自己管理の意識の高さが伺えます。ただ、疲れを感じやすくなったときは、補食を積極的に取り入れるなど適宜食事量を調整することが重要です。
パフォーマンスを発揮する健康な体づくりに必要な食事
続いて、パフォーマンスを発揮する健康な体づくりに必要な栄養素を紹介します。健康な体を維持するうえで、「主食」、「主菜」、「副菜」、「果物」、「牛乳・乳製品」を1日の食事でバランスよく取り入れることが重要です。
体を動かすエネルギー源になる主食は、米、パン、うどん、そば、スパゲティーなど、糖質を主に含むものです。主菜は、筋肉や骨など体をつくるもとになるものであり、肉、魚、卵、大豆製品など、たんぱく質を主に含むものが該当します。
また副菜は体の調子を整えるもので、野菜やきのこ、いも、海藻など、ビタミン、ミネラルを主に含むものです。果物も体の調子を整えるもので、ビタミン、ミネラルを主に含みますが、りんごやバナナ、みかんなどは糖質も多く含むので運動前後の補食にも適しています。
最後に牛乳・乳製品は骨をつくるのに欠かせないカルシウムやたんぱく質を主に含みます。
これらの「主食」、「主菜」、「副菜」、「果物」、「牛乳・乳製品」がそろった食事が栄養バランスの取れた食事です。
農林水産省「食事バランスガイド」によると、1日に必要なエネルギーが2,200±200kcalの場合の目安量は、主食のご飯(中盛り)を4杯程度、主菜の肉・魚・卵・大豆料理から3皿程度、副菜の野菜料理を小鉢5皿程度、牛乳・乳製品の牛乳瓶200ml、果物のみかんを2個程度とされています。
平泉選手の1日に必要と推定されるエネルギーを計算した結果、トレーニングがないときで約2,000kcal、トレーニングをしているときで約2,400kcalとなりました。つまり、前述した食事バランスガイドの摂取目安量を参考に食べていただくことで、1日に必要なエネルギーを補え、バランスの良い食事を取ることが実現できます。
野菜の摂取量を増やすために、「野菜1品プラス」を
平泉選手の食事メニューは、ご飯、肉、魚、卵、大豆製品などのたんぱく質や野菜、果物とバランスが良いと考えます。ただ、1日における野菜の摂取量が小鉢1杯程度と少なく、もう少し増やしても良いと思います。ワンタンスープの具材ににんじんを入れていたのは非常に良いので、アボカドにプチトマトをつけるなど、野菜を1品プラスすることを意識してみてください。
野菜はキャベツやレタス、白菜、玉ねぎ、もやしなどの淡色野菜と、ミニトマトやブロッコリー、ほうれん草、にんじん、かぼちゃなどの緑黄色野菜に分かれていて、それぞれの栄養価に特長があります。淡色野菜は文字通り「色の薄い野菜」と言われ、水分や食物繊維が多く含まれます。
一方の緑黄色野菜は「色の濃い野菜」で、抗酸化成分のβカロテンやビタミンCを多く含み、疲労の原因となる物質を軽減してくれる効果が期待できます。どちらかだけでなく、両方を食べるように心掛けてほしいです。
時間がないときは野菜の下処理は面倒に思いますが、今ではキャベツやにんじん、レタスなどのカット野菜がスーパーでも購入でき、そのほかにも、ブロッコリー、ほうれん草、かぼちゃなどレンジで解凍して食べることができる冷凍野菜もあります。ですので、時短調理に活用してみるのも良いと思います。さらに、きんぴらごぼう、野菜豆、ひじきなどの惣菜も、あと1品の野菜料理として取り入れることもお勧めです。
今回のアドバイスを受けて、平泉選手は「緑黄色と淡色の野菜をバランスよく食べることで、疲労の原因となる物質を軽減できることを知った」と新たな気付きを語る。さらに今後の食事については「野菜の量を意識的に増やすだけでなく、食べる時間にも気を付けて、効率よくエネルギーを摂取できるようにしたい」と意気込んでいて、パフォーマンス向上に向けてさっそく実践していく姿勢だ。「オリンピック出場」を目標に掲げる期待のホープの成長に、今後も目が離せない。